研究課題/領域番号 |
15K14500
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
松田 厚志 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所バイオICT研究室, 主任研究員 (20585723)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオイメージング / 低温工学 |
研究実績の概要 |
本研究は、蛍光タンパク質を発現する細胞を凍らせ、氷粒子に破砕し、蛍光を持つ細胞内小区画を化学的に変化させずに濃縮する技術の開発を目的としている。この目的達成には、生物学、物理学、化学、光学、顕微鏡学、低温工学、粉体学など広範な分野の知識と技術を有機的に結合していく必要がある。開発の参考にするため、関連学会(低温工学・超電導学会、低温生物工学会、化学とマイクロナノシステム学会)や展示会(JASIS、粉体工業展、ナノテク展)などで最新の技術情報の収集を行い、以下の研究開発に役立てた。 本研究の達成には、冷凍庫内で蛍光を頼りに細胞断片を含む氷粒子を選別するソーター顕微鏡の開発が必要となる。また、本顕微鏡は通常の蛍光顕微鏡の他に蛍光粒子を選別する機能や、遠隔で連続操作するための仕組みが必要となる。そのような装置は前例がない。本年度は低温で動作可能な顕微鏡の設計・開発を行った。 また、低温で氷を扱うための検討を行った。本研究における目的分子の精製度は、破砕された氷の粒子径により決定され、粒子径が小さいほど精製度が向上する。しかし、粒子径が小さいほど、粒子の選別に時間がかかる。そこで、本研究では数マイクロメートルの比較的大きな氷粒子で第一段階の選別を行い、選別後の氷粒子をさらに数100ナノメートルに粉砕し、第二段階の選別を行う。このように、段階的に粉砕と選別を行い、高精製度を達成する。そのためには、粉砕後の氷粒子の径を自在に調節できる必要がある。しかし、このような研究も過去に例がない。そのため、本研究で検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は低温で動作できる顕微鏡の設計・開発を行った。蛍光ソーターとして必須となる3つの光路、すなわち(1)蛍光励起用光路(2)蛍光検知用光路(3)パルスレーザー照射用光路の3光路に加えて、蛍光感度を向上させるため、対物レンズを流路の上下に配置し、(4)第二の蛍光検知用光路を追加した。さらに(5、6)それぞれの対物レンズのアライメント用カメラ設置光路(7)焦点を長時間維持するためのレーザー照射用光路(8、9)焦点維持用レーザー検知光路(二つ必要)、さらに、(10)明視野観察用の光源照射光路の、計10光路となった。また、ステージには手動ステージの他に、低温でも動作可能なピエゾ素子による自動ステージを装備し、遠隔アライメントと、フィードバックによる焦点維持を可能にした。以上の理論的設計を終え、現在、顕微鏡の組み立てを進めている。 氷の粉砕には、二種類の粉砕方法(弾丸破砕法とビーズミル法)を検討した。粒子径の計測は目視により行った。弾丸破砕法では肉眼で確認可能な大きさの粒子(百マイクロメートル以下)の粒子が形成された。一方、ビーズミル法では、肉眼では確認できないほどの細かい粒子が形成された。また、粉砕時間による粒子径を検討したが、粉砕時間を短縮すると大きな氷粒子が残存するが、偏差が大きくなる傾向があった。従って、粉砕時間による粒子径の調節は困難であり、異なる破砕方法や使用するビーズの径などにより、粒子径を調節する必要があると結論できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に作成した顕微鏡を用い、蛍光ビーズの懸濁液からビーズを常温で収集する実験を開始する。また、この顕微鏡を実際に冷凍庫内に設置し、動作状況を確認する。低温での動作を検討し、変更の必要がある部分には随時対処する。冷凍庫内で動作可能な状態になったら、冷凍庫内で蛍光ビーズ選別実験を行う。また、粉砕機により粉砕した氷粒子の径を、顕微鏡で直接観察し、径を計測する。また、この粒子径計測法を用いて、氷の粉砕法を定量的に評価し、最適な粉砕条件を検討する。以上の研究により、適切な径を持つ氷粒子を作成し、目的とする氷粒子を低温で選別できる蛍光ソーターを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、FPGAを用いた電子回路を作成する予定であったが、FPGAをリアルタイムOSと組み合わせた高度なシステムを導入する方が長時間運転時の安定性が向上するとの結論に至った。しかし、この様な装置は予定よりも高額になるため、本年度は、氷の粉砕法の検討を先行して実施し、FPGAはより大型の予算で購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
顕微鏡を設計したところ、予定よりも光路が多く、複雑になったので、光学部品を追加して顕微鏡の完成度を向上するために使用する。今後は、実験を遂行しながら随時、必要部品を追加する。
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