本研究では微小管動態の進化プロセスの解明をめざし、線虫Caenorhabditis elegansとその近縁種であるPristionchus pacificusを用い、『進化細胞生物学 (Evolutionary Cell Biology)』という新しい視点に立った実験系を構築することをめざす。H28年度は、昨年度に引き続き、C. elegansとP. pacificusの受精直後から第一分裂までの細胞動態に着目して解析した。昨年度確立した遺伝子銃によるP. pacificusの形質転換法を用いて、F-アクチンを可視化するためのGFP標識LIFEACT発現株を構築した。この株のライブイメージング観察により、受精卵における細胞極性過程のF-アクチン動態がC. elegansとP. pacificusで異なることが明らかになった。特に、P. pacificusでは後極側に一過的なF-アクチン凝集体が形成された。このF-アクチン集合体と紡錘体の挙動に関連があるかどうかを明らかにするために、P. pacificusのGFP::LIFEACTとGFP::γ-チューブリンの二重発現株を構築し、ライブイメージング観察を行った。その結果、F-アクチン凝集体は紡錘体極が後極から離れると同時に形成され、さらにその後、F-アクチン凝集体に紡錘体極が引き寄せられることを見出した。F-アクチン凝集体は紡錘体極と接すると急速に消失した。以上のF-アクチン凝集体と紡錘体極の動的な挙動はC. elegansでは見られない現象である。以上より、C. elegansとP. pacificusでは細胞極性の確立メカニズムが異なることが示された。
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