研究課題/領域番号 |
15K14511
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤木 幸夫 九州大学, 生体防御医学研究所, 特任教授 (70261237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ペルオキシソーム / ミトコンドリア / オルガネラ形成・形態 / 酸化ストレス / レドックスバランス |
研究実績の概要 |
本申請者らは、ペルオキシソームマトリクスタンパク質輸送異常を示す新規CHO細胞変異株ZP114の相補遺伝子産物としてミトコンドリア膜タンパク質Voltage-Dependent Anion Channel(VDAC)を同定した。本申請研究は、VDACによるペルオキシソームマーカータンパク質である過酸化水素分解酵素、カタラーゼの細胞内局在制御の分子機構解明を基盤として、その背後に存在すると想定される「活性酸素種に起因する酸化ストレスに応答したペルオキシソームとミトコンドリアの協奏的な新規の細胞機能恒常性維持機構」の全貌を明らかにすることを目的とする。 H27年度は酸化ストレス依存的なカタラーゼのサイトゾルへの局在変化の分子機構の解明に取り組み、野生型CHO細胞に対し過酸化水素処理するとカタラーゼの部分的サイトゾル局在化が観察されることを見出した。この過酸化水素処理時における細胞生存率は、カタラーゼ活性阻害剤3-アミノトリアゾールの添加により顕著に低下したことから、過酸化水素処理によるアポトーシス誘導はカタラーゼの活性依存的に抑制されており、ペルオキシソームからサイトゾルへの局在変化が重要であることが示された。また、35S-標識メチオニンを用いたパルスチェイス実験により、カタラーゼのサイトゾル局在は既存ペルオキシソーム内からの移出(エクスポート)であることを強く示唆する結果を得た。さらに、VDACによるカタラーゼの細胞内局在制御の分子機構を明らかにするためVDACと相互作用する因子群の関与を検討したところ、抗アポトーシスタンパク質の一つがカタラーゼのサイトゾル局在化に重要な役割を果たすことを示唆する結果を得つつあり、その詳細を明らかにしようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ZP114変異細胞ではVDACの脆弱化に伴うミトコンドリアの障害により活性酸素種(ROS)およびアポトーシスが誘導されるが、これに対抗する反応としてカタラーゼのペルオキシソームからサイトゾルへと局在性を変化させ、サイトゾルのROS量を低下させることによりアポトーシスを抑制する機構が存在するという仮説を立てている。H27年度の計画に沿って、過酸化水素依存的なアポトーシス誘導に対してカタラーゼのサイトゾル局在化が亢進し、その過酸化水素分解活性を介してアポトーシスが抑制されることを示すことができた。また、VDACによるカタラーゼの細胞内局在制御の分子機構についても、ミトコンドリアタンパク質であるVDACとペルオキシソームマトリクスからのカタラーゼ移出という空間的に離れている事象を連結しうるVDAC結合性の抗アポトーシスタンパク質を見出しており、新規かつ重要な発見をした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き、過酸化水素依存的なカタラーゼのサイトゾルへの局在変化の分子機構の解明を進め、とくにカタラーゼのサイトゾルへの移出に直接的に関与すると想定される新規同定抗アポトーシスタンパク質の役割について、詳細に検討する。これらの結果を統合的に解析し、ZP114変異細胞におけるVDAC欠損によるカタラーゼのサイトゾル局在化の分子機構の全貌を明らかにする。さらに、変異細胞ZP114で見出している現象の正常細胞における重要性についても検証する。すなわち、野生型細胞においてもペルオキシソームとミトコンドリアが協同して酸化ストレスに応じた抗アポトーシス反応としてカタラーゼのサイトゾル局在化を引き起すのか、生理的条件におけるカタラーゼのサイトゾル局在化の意義を解明する。
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