小胞体は細胞内のカルシウムストアとして働く。貯蔵されているカルシウムは細胞内外の様々な刺激に応答して細胞質ゾルに放出され、カルシウム依存性タンパク質を活性化する。カルシウムの放出は小胞体内カルシウム濃度の低下を招くが、これについては必ずしも注目されてこなかった。私たちは骨格筋の前駆細胞(筋芽細胞)の分化過程において小胞体カルシウム濃度の低下が一過的に起こることを見出し、これが分化の進行にとって重要であることを示した。本研究課題においては小胞体カルシウム濃度の低下がいつ、どのような仕組みで起こるかを調べた。 カルシウム濃度低下を視覚的に検出するために小胞体膜を貫通する小胞体カルシウムセンサータンパク質STIM1に注目した。STIM1は小胞体のカルシウム枯渇に応答してクラスターを形成して活性化し、小胞体へのカルシウム再充填反応を促進する。STIM1の膜挿入や機能部位の活性に影響を与えないように、STIM1 cDNAのコード領域の内部に緑色蛍光タンパク質(GFP)類縁体のcDNAを連結して改変STIM1 cDNAを作製した。筋芽細胞を用いて改変STIM1安定発現株を作り、小胞体カルシウム濃度の低下について検討した。 1)STIM1クラスターは分化誘導開始後22時間から24時間頃に出現し、少なくとも数時間維持されるが次第に数やサイズが減少した。従って、22~24時間頃から数時間の間に小胞体カルシウム濃度の低下が起きていることが示唆された。2)小胞体カルシウムポンプや小胞体カルシウムチャネルと相互作用するタンパク質群の遺伝子導入実験を行い、STIM1のクラスター化を起こす可能性のあるものを見出した。筋分化過程におけるこのタンパク質の発現上昇や特異的修飾について検討を続けている。以上のように、小胞体からカルシウムが放出される時期を特定し、それを引き起こす因子の候補を取得した。
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