本年度はMASK法により安定して遺伝子をノックダウンできるベクターの開発を中心に進めた。これまではターゲット遺伝子の転写調節領域および5’UTR領域をそれぞれ単離し、GFP等のレポーター遺伝子につないだベクターをゲノムに組み込んだトランスジェニック系統を作製することで遺伝子のノックダウンを進めていた。この方法により昨年度から母性遺伝子をノックダウンする系統をスクリーニングしたが、ほとんどの場合ノックダウン系統が得られていないという結果になった。原因として、単離した転写調節領域が母性での遺伝子発現を誘導するのに十分ではない可能性が考えられた。そこで、MASKを誘導できることがあらかじめ分かっている既存の転写調節領域を利用した新しいベクターを2種類構築した。1つめは、Nut遺伝子の転写調節領域の下流にGFPをつなぎ、さらに発現するGFPの3’UTRに相当する領域にターゲット遺伝子の相同領域を組み込んだベクターである。もう1つのベクターは、母性発現遺伝子YB1の転写調節領域を利用したものである。これら2種類のベクターについて系統樹立を継続しており、これまでに1種類ずつのトランスジェニック系統の構築が完了した。これらの系統については遺伝子のノックダウンの有無の確認をするために系統の飼育を行っている。また、前年度からのスクリーニングの結果、Wnt5遺伝子をノックダウンした系統の1つで尾部伸張の阻害が確認されたため、この表現型がWnt5のノックダウンに基づくものかどうかについて解析を進めている。さらに、MASK法の動作原理を解明する目的で、トランスポゾン配列がないベクターをゲノムに導入した際にノックダウンが発動するかを検証した。その結果、MASK法にはトランスポゾン配列は不要であることが明らかとなった。このため、ベクターのデザインや系統作製についてよりフレキシブルな対応が可能となった。
|