研究課題
脊椎動物の神経回路の形成・機能を理解する上で、ゼブラフィッシュやメダカ等の小型魚類が用いられるようになってきた。小型魚類の神経回路は、哺乳類等の神経回路と類似点が多いものの、神経回路構造が正確に分かっていない部分が多い。これまで、哺乳類の神経回路解析に経シナプス的に感染する狂犬病ウイルスが用いられてきた。本研究では、いまだ不明の部分が多い小型魚類の小脳の入力線維に関して、組換え狂犬病ウイルスを用いて解明することを試みた。組換え狂犬病ウイルスにはニワトリレトロウイルスASLV由来のエンベロープタンパク質EnvAが発現しており、ゼブラフィッシュ小脳ニューロンに、EnvA受容体であるTVAとmCherryの融合タンパク質(TVA-mCherry)を発現させることで、組換え狂犬病ウイルスを感染させることができる。さらに同じニューロンに、狂犬病ウイルス外被糖タンパク質(G)を発現させることで、ウイルス粒子にGが組み込まれ、軸索を逆行性に輸送され、入力線維へ経シナプス的に感染し、入力線維ニューロンをGFPで標識することができる。本年度は、TVA-mCherryおよびGを小脳顆粒細胞で発現させるため、顆粒細胞特異的遺伝子cerebellin12(cbln12)のプロモーターの単離、およびcbln12プロモーターを用いて蛍光タンパク質の発現系を確立した。さらに、TVA-mCherryとGの二つの遺伝子を2Aペプチドコード配列で繋げ、その融合遺伝子を小脳プルキンエ細胞特異的遺伝子aldolase Ca(aldoca)のプロモーターおよびcbln12Pプロモーターで発現させるプラスミドを構築し、ゼブラフィッシュにTol2トランスポゾンシステムを用いて導入した。
3: やや遅れている
本研究では、組換え狂犬病ウイルスの感染に必要なTVA-mCherryと、複製および逆行性輸送・感染に必要なGを、ゼブラフィッシュ小脳プルキンエ細胞および顆粒細胞に発現させる必要がある。2Aペプチド配列を用いて、TVA-mCherryとGの両方を発現するシステムを構築したが、いまだ、二つのタンパク質が同一細胞で十分量発現しているかを確認できなかった。そこで、TVA-mCherryとGを別々に発現するシステムを構築する必要が出てきたため、当初の予定よりやや遅れている。
組換え狂犬病ウイルスの感染に必要なTVA-mCherry遺伝子と、複製および逆行性輸送・感染に必要なG遺伝子を、別々の発現ユニットとして発現させるシステムを構築する。具体的には、aldocaまたはcbln12のプロモーターを二つ用いて、TVA-mCherryおよびGをプルキンエ細胞または顆粒細胞に独立に発現させる。二つの発現ユニット(TVA-mCherryおよびG)を一つのプラスミドに組み込み導入する系と、二つの遺伝子を別々のトランスジェニックフィッシュに発現させ、交配により二つの遺伝子が同一の小脳ニューロンに発現する系、の二つを実験系を試す。最終的には、TVA-mCherryとGを同一の小脳ニューロンに発現させ、組換え狂犬病ウイルスの感染実験を行う。プルキンエ細胞で実験系の正当性を検討し、顆粒細胞で新規の知見を得る予定である。
当初は、組換え狂犬病ウイルスの感染実験を2015年度に行う予定であったが、ウイルス感染が確実に可能なトランスジェニックフィッシュの作製に至らず、次年度にウイルス感染実験を行うことになったため。
次年度にトランスジェニックフィッシュを完成し、組換え狂犬病ウイルスの感染実験を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
PLoS Genetics
巻: 11 ページ: e1005587
10.1371/journal.pgen.1005587
Science Advances
巻: 1 ページ: e1500615
10.1126/sciadv.1500615