研究課題
胚発生過程におけるダイナミックな遺伝子発現制御を理解する上で、タンパク質とゲノムDNAとの相互作用の研究は非常に重要である。この解析はクロマチン免疫沈降法(ChIP)と呼ばれる手法で通常行われるが、現在はさまざまな技術的な制約がある。本研究では、目的タンパク質にビオチンタグを導入することで、タンパク質-DNAの相互作用を動物胚の特定の組織で高感度に検出する、汎用性がきわめて高い方法の開発を行い、Sox転写因子に応用する。ビオチンタグを用いることで、特異性の高い抗体の入手が不要になるばかりか、高い精製度のタンパク質-DNA複合体が得られる。さらに、ビオチン化酵素を特定の組織で発現させることで、その組織のみにおける相互作用が検出できる新規のシステムを構築する。ビオチン化配列は、最新のゲノム編集技術であるCRSPR-Casシステムを用いてゼブラフィッシュの内在遺伝子に挿入する。本研究課題では、モデル生物としてゼブラフィッシュを利用して、タンパク質-DNA相互作用を生体内の特定の組織で高感度に検出する方法の開発を行った。この手法を、胚発生の制御に中心的な役割を果たしているSox11転写因子に応用し、胚の特定の組織におけるタンパク質のビオチン化のモデルケースとして取り上げた。本年度は、ビオチンタグを用いたChIPのゼブラフィッシュ胚における利用例がこれまでに報告されていないことから、まずこの手法を効率的に適用するための条件検討(ビオチン化酵素の発現レベル、固定条件など)を行った。次に、ビオチン化配列を、CRISPR-Casシステムを用いてsox11遺伝子にノックインする効率的な手法の検討を行った。これにより、一本鎖DNAを用いたノックイン方が本研究には適していることがわかった。
3: やや遅れている
本研究は、ゼブラフィッシュをモデル生物として利用しており、交配を通して得られる胚が実験には必須である。研究代表者は、平成27年度に大阪大学から高知工科大学へと所属が変更になった。これに際して、ゼブラフィッシュ飼育用の水槽設備の移設を平成27年の7月に行った。この水槽設備を再構築し魚を移動させたところ、水カビの異常繁殖が起こり、水槽システムの維持が非常に困難な事態となってしまった。このため、一部の魚のみを残して小規模で水槽システムを運用しつつ、水カビの異常繁殖の低減を計った。以上の理由により、水槽設備の移設後にゼブラフィッシュの胚を利用した研究が全く出来ない期間が生じてしまい、研究計画の遅延が生じた。このため、胚を利用する実験の一部を平成28年度に行う必要が生じた。
以下の項目の研究を進めることにより、タンパク質-DNA相互作用を生体内の特定の組織で高感度に検出する方法の開発を進める。(1) 前年度の結果を基して、にsox11のC末端部にビオチン化配列が挿入されたトランスジェニックフィッシュ(sox11- BLRP)を確立する。(2) ゼブラフィッシュ胚の特定の組織でBirA酵素を発現させるためGAL4-UASシステムを利用する。このためのUAS-BirAトランスジェニックフィッシュを確立する。(3) ビオチンタグを利用したクロマチン免疫沈降法 (bioChIP)をおこなう。
研究代表者は、平成27年度に大阪大学から高知工科大学へと所属が変更になった。これに際して、ゼブラフィッシュ飼育用の水槽設備の移設を行った際に、水カビの異常繁殖が起こり、水槽システムの維持が非常に困難な事態となってしまった。このため、水槽設備の移設後にゼブラフィッシュの胚を利用した研究が全く出来ない期間が生じてしまい、胚を利用する実験の一部を平成28年度に行う必要が生じた。
胚を利用する実験、CRISPR-Casシステムを用いるノックインするに関連する実験に必要な分子生物学実験用の試薬に使用する。また、ビオチンタグを利用したクロマチン免疫沈降法に必要な試薬、次世代型シーケンサー用の試薬に使用する。
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Dev. Growth. Differ.
巻: 58 ページ: 205-214
10.1111/dgd.12256