研究課題
動物発生における母性-胚性遷移(maternal-to-zygotic transition: MZT)は、卵内の母性因子を消去し、胚ゲノムの情報にしたがった発生プログラムへと移行する過程であり、動物種をこえた普遍的現象である。脊椎動物のMZTにおける母性RNAの分解には、miRNA経路が中心的役割を果たす。一方、ショウジョウバエでは、miRNA経路の因子の突然変異は卵形成不全となることから、MZT実行経路の詳細は不明のままである。本研究では、ゲノム編集と新規技術を確立する事により、MZTにおけるmiRNA経路の機能について解析を試みている。具体的には、CRISPR-Cas9を利用した遺伝子ノックイン手法を用いて、miRNA経路因子にGFPをノックインした。次にGFP融合タンパク質を特異的にユビキチン化して分解に導くNSlmb-vhhGFP4を卵形成過程から転写させつつ、排卵後に翻訳させることの出来るsmaug (smg) 遺伝子のプロモーターと3 'UTRに連結したトランスジェニック系統 (smg-NSlmb-vhhGFP4) を作製した。そして、両者を掛け合わせることにより、標的遺伝子の機能を卵形成過程ではGFP融合タンパク質の状態で維持しつつ、排卵後の胚性遺伝子の活性化が始まる前に分解誘導するシステムを構築した。現在までに、miRNA経路の遺伝子のうち、Dicer-1 (Dcr-1)とGw182 (Gawky)についてGFPノックイン系統の作製に成功した。これらGFP系統とsmg-NSlmb-vhhGFP4系統との掛け合わせた。その結果、Gw182をノックダウンすると胞胚期前に胚発生が停止することから、Gw182は胚発生初期に必須の機能を持つことが判明した。一方、Dcr-1については、今のところノックダウンによる異常は見られていない。
3: やや遅れている
本年度は、smg-NSlmb-vhhGFP4が実際に、卵形成過程ではGFP融合タンパク質を分解誘導することなしに、初期胚の胞胚期までに分解を引き起こすことが出来ることを確認した。次に、GFPノックイン系統の作製については、Dcr-1とGawkyについてはN末端側にGFPがノックインされた系統の作製に成功した。一方、Ago1については、複数の転写・翻訳開始点が存在することから、当初、C末端側にGFPをノックインすることを計画して実験を進めてきた。しかし、既に公表されていたX線構造解析を詳細に検討したところ、C末端のカルボキシ基が、miRNAの認識に必須であり、C末端側配列の付加はAgo1の機能を喪失させることが判明した。このように当初計画していた3つのmiRNA経路因子の内、2つについて作成が完了しているが、Ago1のノックイン系統については、いまだ完了していない。
前述のようにAgo1には複数の翻訳開始点が存在することから、GFPを複数部位に挿入するか、アイソフォーム間で共通する配列中に挿入する必要がある。構造を詳細に検討することにより、どちらのストラテジーを選択するのかを決定する予定にしている。また、Dcr-1については、NSlmb-vhhGFP4によるノックダウンでは,初期胚発生における異常が観察されていない。Dcr-1はmiRNAの成熟に必須の機能を持つことを考えると、初期胚でのノックダウンによって異常が生じることが期待される。従って、NSlmb-vhhGFP4が効率的にはDcr-1を分解誘導できていない可能性が考えられる。そこで、NSlmb-vhhGFP4とは別のGFP表面と結合するようなユビキチン化因子を作製することを計画したい。具体的には、vhhGFP4途は別にGFPと特異的に結合することの出来るペプチド配列として、GBP4と3G86.32を選択した。これらをNSlmbと融合させた遺伝子をsmg制御配列化に挿入したトランスジェニック系統を作成する予定である。
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PLOS Genetics
巻: 11 ページ: e1005209
10.1371/journal.pgen.1005209
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巻: 201 ページ: 631-649
10.1534/genetics.115.180018
http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/bunya_top/germline_development/