研究課題/領域番号 |
15K14532
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
三井 優輔 基礎生物学研究所, 分子発生学研究部門, 助教 (70634129)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 平面細胞極性 / Wnt / Xenopus |
研究実績の概要 |
形態形成運動は発生学の中心的課題であり続けているが、個体レベル・細胞レベル・サブ細胞レベルといった階層を統合した理解は十分ではない。本研究は特にサブ細胞レベルでの素過程として、分泌シグナルによるアクチンの重合制御に注目し、それが如何に細胞の形態、更には胚の形づくりにつながるかを解明する。具体的には、細胞の周囲にWnt蛋白質がドット状に局在するという申請者の観察結果をもとに、局在化したWnt蛋白質を核にして局所でアクチンの重合が促進されるという作業仮説を設定し、アフリカツメガエル胚を用いて検討する。 本研究では特に形態形成運動への関与が知られているWnt11蛋白質に注目して解析を行った。興味深いことに内在性のWnt11は平面細胞極性(PCP)との関連を示唆する特異なパターンを形成して細胞間隙に分布していた。さらにWnt11蛋白質を通常では細胞極性が顕著ではない、アニマルキャップ領域で過剰発現させたところ、Wnt11が一細胞の周囲でも大きく偏った分布を示した。この「極性化」が見られるときには内在性のFrizzled7がWnt11の集積する辺で強く局在していた。Frizzled分子はWnt受容体であるとともに平面細胞極性のコアファクターとして知られるため、Wnt11による直接的な平面細胞極性への働きかけが示唆される。このような「極性化」はdominant negative Wnt11を発現させた時には見られなかった。これらからWnt11はシグナル活性化依存的に自らの足場分子の分布を特定の辺に集合させ、このポジティブフィードバックによって自己組織化的に細胞の極性化を起こすという新たな可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のようにWnt11が自己組織化的に細胞の極性化を引き起こす可能性が見いだされた。またその動的な変化を捉える為にはWnt11に蛍光蛋白質を融合させる等する必要があるが、Wnt11蛋白質のシグナル活性を十分保持したGFP融合蛋白質を作成することに成功した。それにより、Wnt11が集積した辺が速やかに収縮するという重要な発見があった。これまでに観察していた内在性のWnt11のパターンと総合すれば、外胚葉の収斂伸張運動においてWnt11の分布が直接的にどの細胞辺を収縮させるかを指示している可能性が示唆され、本研究が目標としていた「分泌因子による細胞・組織の形態形成運動の制御」の理解を進める結果が得られたと考えている。 さらにWnt11に対するモノクローナル抗体を用いて「抗体トラップ法」をはじめとするいくつかの新規解析系を計画しているが、この目的に利用可能な良質なモノクローナル抗体を樹立することができた。得られたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから既に予定を前倒しして抗体遺伝子のクローニングを終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
モノクローナル抗体の遺伝子クローニングが完了したので、当初予定どおり、抗体トラップ法の実験を行い、内在性Wnt11の分布を人為的に操作することを試みる。また当初の予想をこえて、ポジティブフィードバックによってWnt11がパターン化された細胞外分布を示す可能性が示唆されたので、その分子メカニズムを明らかにすべく、PCP因子等とWnt11蛋白質の分布の制御関係について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末にかけて、事務的問題から支払いが遅れたため、軽微な額ではあるが次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れていた支払いを速やかに行うとともに、当初計画分について計画通り執行を行う。
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