研究課題/領域番号 |
15K14535
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
近藤 武史 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 客員研究員 (60565084)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上皮形態形成 / ショウジョウバエ / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
動物においては、一層の細胞シートからなる上皮組織が秩序だって成長と変形を繰り返すことにより機能的な器官、さらには個体を作り上げていく。上皮形態形成は異なる運命を持つ細胞群が接する境界で顕著に駆動されることから、細胞が近隣細胞との違いを認識し、応答することが必須であると考えられるが、この自他認識のメカニズムは理解が進んでいない。この形態形成運動を駆動する自他認識機構は主に発現する転写因子の違いが基盤となっていることが多い。つまり、それら転写因子群の下流で制御されるトランスクリプトームの違いが自他認識を担っていると考えられる。この自他認識制御メカニズムを全ゲノムレベルで明らかにするために、本研究ではショウジョウバエ胚における各細胞の遺伝子発現状態を定量解析することを目指しており、ショウジョウバエ胚から分離した細胞の1細胞RNA-seq技術を確立することを第一の目的としている。これまでにフリューダイム社C1を用いた1細胞cDNA合成を試みており、cDNAを合成することには成功した。RT-PCRによりこれらのcDNAからハウスキーピング遺伝子および細胞特異的に発現する遺伝子の発現を検出することもできた。しかしながら、細胞の捕獲効率やC1中での細胞の安定性にまだ問題が残っているために、効率良く、確証をもって真に1細胞由来のcDNAを合成するには至っていない。現在、この問題を解決するために実験条件の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ショウジョウバエ胚由来の細胞が想定以上に物理的な刺激に弱く、一般的な細胞と比較しても弱い物理刺激により細胞死を起こしてしまうことが原因で、1細胞ずつの単離および真に1細胞由来のcDNA合成には成功できていない。物理的な刺激に弱いという問題を解決するために実験条件の検討を進め、固定を行った細胞を用いることにより細胞の捕獲効率が大幅に改善され、細胞の断片化も起こらなくなることが明らかになった。予期していなかった細胞の性質により当初の計画からは遅れが生じているが、その解決方法は見出しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
まず固定した細胞からC1を用いて正確に1細胞cDNAを合成するための実験手法の確立を目指す。これまでの検討の結果、Cell Cover試薬で固定した細胞においてRNAの分解が認められるため、使用する試薬や手順を検討することにより安定したRNAが溶出できる細胞の調整法を確立する。また、Cell Cover試薬を用いた手法の確立が困難な場合には、最近報告のあったホルマリンで固定した細胞を用いた1細胞RNA-seqへと切り替える (Thomsen et al. Nat. Methods 13, (2015)) 。ホルマリン固定した細胞を用いる場合にはC1ではなく、セルソーターを用いた細胞分取もしくは顕微鏡を用いたマニュアルでの細胞分取を行う予定である。 1細胞RNA-seq手法が確立でき次第、予定通りに400細胞からcDNAライブラリを作製し、ギャップ遺伝子とDV軸遺伝子、ペアルール遺伝子の発現量を定量PCRにより解析することにより、各細胞の胚における位置を推定し、RNA-seqを行う。さらに、RNA-seqデータを用いてそれぞれの細胞間で遺伝子発現状態を比較することにより、細胞列間で異なる発現パターンを示す遺伝子を抽出し、ショウジョウバエ胚の形態形成を駆動するための細胞自他認識を制御する遺伝子発現組み合わせの候補を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1細胞cDNA合成手法の確立ができず、予定していたや400細胞からのcDNA合成と定量PCRによる遺伝子発現解析を行わなかった。それにより、それらの実験のための分子生物学実験用消耗品を使うことがなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
1細胞cDNA合成手法の確立ができ次第、400細胞からのcDNA合成や定量PCRによる遺伝子発現解析、RNA-seqのための分子生物学実験用消耗品として使用する。
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