研究実績の概要 |
動物においては、一層の細胞シートからなる上皮組織が秩序だって成長と変形を繰り返すことにより機能的な器官、さらには個体を作り上げていく。上皮形態形成は異なる運命を持つ細胞群が接する境界で顕著に駆動されることから、細胞が近隣細胞との違いを認識し、応答することが必須であると考えられるが、この自他認識のメカニズムは理解が進んでいない。本研究ではこの自他認識制御メカニズムを全ゲノムレベルで明らかにすることを目指して、ショウジョウバエ胚における各細胞の遺伝子発現状態を定量解析するための1細胞RNA-seq技術を確立することを第一の目的とした。これまでに確立した基本技術を用いて、本年度は実際にフリューダイム社C1を用いた1細胞RNA-seq解析により合計251細胞のデータを取得し、1細胞あたり平均4,556遺伝子の発現(RPKM >1)を検出することに成功した。また、既知の遺伝子発現空間パターンの情報を基準として、細胞自他認識を介した配置換え運動を行う胚側面に位置する86細胞を抽出した。それらは外胚葉組織に相当するが、GO解析より関連GOがエンリッチしていた。さらにこれらの細胞間でのhighly variable gene (HVG)を解析したところ、転写制御因子に加えて多くの膜タンパク質をコードする遺伝子が集団内で不均一に発現することが明らかになった。この中にはすでに不均一な発現パターンが報告されているtollファミリー因子群に加え、軸索誘導に関わる因子も含まれていた。細胞間認識に関与する因子が複数同定されたことから、これらの複雑な相互作用の組み合わせパターンを介して近隣細胞が互いを認識しあい、形態形成を駆動している可能性が示唆された。
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