研究課題/領域番号 |
15K14539
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 寛 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (60222113)
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研究分担者 |
瀧 景子 東京工業大学, 資源化学研究所, 産学官連携研究員 (50332284)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光環境応答 / 原始紅藻 / ヒストンコード / 翻訳後修飾 / 転写調節 |
研究実績の概要 |
植物の光環境応答能力の多くは、光合成生物であるシアノバクテリアの細胞内共生により獲得されたと考えられる。光合成生物は光を主要なエネルギーとして用いるが、非光合成生物と異なり、光のない夜間には生命活動が大きく制限される。このため細胞共生の後、植物は暗所への適応能力をその進化の初期に獲得し、これが植物の光応答の基盤となったはずである。本研究では植物の光環境応答の初期進化について、原始紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン)を材料として特にクロマチンレベルの制御に注目して研究している。 2015年度の研究では、明条件で培養したシゾン細胞、暗条件に移した後に経時的に回収したシゾン細胞からのヒストン抽出条件を検討した。現在、得られたサンプルについてMS解析を行い、アセチル化やメチル化等の部位特異的な修飾の検出を進めている。高等植物では、クロマチンレベルでの光環境応答に必要なCOP1等の因子が知られ、光条件依存的な発現調節因子のユビキチン化、安定性の調節に関与することが知られている。本研究ではシゾン核ゲノムにコードされるCOP1遺伝子機能理解を目的に、相同組換えによる欠損株の取得を試みた。しかし現在までに当該の破壊株は取得できておらず、生育に必須の遺伝子である可能性考えられた。 また、植物の初期進化では暗所で何らかの制御因子が機能を獲得し、核ゲノムの発現状況を調節するようになったと考えられることから、暗所で蓄積するクロマチン関連因子、転写関連調節因子の検索を行った。その結果、Mybドメインをもつ転写因子の一つ(Myb2)が明暗シフト後に蓄積すること。葉緑体で機能する光アンテナ遺伝子群のプロモーター領域に結合して暗所における転写抑制に寄与することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画では、平成27年度に光環境変化に伴うトランスクリプトーム解析(1)、ヒストンの翻訳後修飾の免疫学的検出(2)、シゾン光制御遺伝子候補の機能解析(3)の3項目を挙げた。(1)のトランスクリプトーム解析については、他研究室との協力により当面の解析に必要な情報が得られたので多くの時間を使うことはなかった。一方で、シゾンゲノム情報を基にした高密度タイリングアレイが利用可能となったことから、様々な核内調節因子の結合位置を染色体上にマップできるChIP on Chip法の確立に注力した。窒素応答に関与する転写因子Myb1をモデル系として用い、C末端にFLAG-tagを付加したMyb1タンパク質を過剰発現させたシゾン株からFLAG抗体でクロマチン免疫沈降反応を行い、ゲノム上への結合部位を効率良く検出することに成功した。今後はこの技術を応用することで、光環境応答因子の相互作用するゲノム領域を同定する道が拓かれた。(2)のヒストン翻訳後修飾の検出については、アセチル化H3K9、アセチル化H3K27等の検出には成功したが、光環境変化による違いを見いだすには至っていない。抗体の種類をさらに増やしていくことは予算的にも現実的でないことから、本項目についてはMS解析による検出を待った上で更に検討を進めることとしている。(3)の機能解析ではCOP1を対象として遺伝子破壊実験を行ったが、これまでに遺伝子欠失株は得られていない。一方で、暗所で蓄積するMyb因子を同定し、このタンパク質をコードする遺伝子の破壊実験を行い完全欠損株の取得にも成功した。また、このMyb因子に対して調製した抗体を用いた免疫沈降解析により、葉緑体で機能する光捕集アンテナタンパク質遺伝子のプロモーター領域への結合が同定された。この標的遺伝子の発現が暗所で抑制され、欠損株ではその抑制が解除されることから、実際にMyb因子の結合による直接の転写抑制が起きていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
MS解析によるヒストン翻訳後修飾の解析を開始しているが、現在のところ光合成タンパク質の混入が多いため、精度よい解析のため精製純度を更に上げる方策を検討する必要がある。所属する研究機関に設置されているMS機器ではトップダウン解析(プロテアーゼ消化をせずにMS解析を行い、複数の翻訳後修飾の状況が解析可能)であるので、順次複数の修飾の共役も含めて明暗制御に関わるヒストンコードの検出を目指す。また、明暗条件で差のある修飾が検出でき次第、特異的修飾に対する抗体により、さらに詳細な解析に進む予定である。 光制御因子であると想定したCOP1遺伝子については完全欠損株を得ることができなかった。これはCOP1が必須遺伝子である可能性が高く、今後はアンチセンスRNAの発現により遺伝子発現レベルを低下させたノックダウン株の取得を行い、暗条件での遺伝子発現への影響を調べる。また、COP1は標的タンパクとの相互作用を介したユビキチン修飾に関わると考えられることから、COP1タンパクをbaitとした酵母ツーハイブリッド解析による標的検索を行う。 暗所において蓄積するMyb転写因子については、クロマチン制御との関係は不明であるものの、暗所における特異的転写抑制に大きな寄与をしている可能性が高い。これまでに確立したChIP on chip法を適用することで、暗所におけるMyb因子の結合位置を検索する。このデータをトランスクリプトーム解析の結果と合わせることでMyb因子の寄与を明らかにする。また、明暗条件での変化の見られるヒストン修飾が同定でき次第、特異的抗体で検出できる場合にはChIP on chip法によるゲノム上へのマッピング、トランスクリプトームと合わせた機能解明へと進める。
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