研究課題
動物の受精では,1つの卵に対して複数個の精子が受精することを防ぎ,雄と雌が1:1で受精するように保証する多精拒否の仕組みが存在する.被子植物では2つの精細胞が1本の花粉管によって運ばれて,それぞれが卵細胞と中央細胞と受精する.このように必要十分の数の精細胞しか受精の場に供給されないため,動物に比べ多精が生じにくいシステムとなっている.しかし,近年,精細胞を2個以上形成するシロイヌナズナ変異体を用いた実験により,被子植物においても多精拒否が存在することがわかってきた.エチレンシグナル経路を欠損するシロイヌナズナ変異体(ein2-5)は,重複受精が完了した後も二本目の花粉管を高頻度に誘引するため,合計4個の精細胞が卵細胞へと供給される.そこで,多精を高頻度に示す変異体を順遺伝学的手法によって分離・同定することで,多精拒否の仕組みを解明できると考えた.平成27年度では,まず,2本目の花粉管によって放出された精細胞が実際に受精卵と初期胚乳の間に放出されているのか,検討するところから始めた.ところが,精細胞をラベルした花粉管をein2-5変異体雌しべに授粉させたところ,2本目の花粉管から放出された精細胞は受精領域には到達せず,胚乳と一続きになった助細胞へと放出されたことによって,発達中の胚乳に侵入してしまうという予想外の出来事が観察された. 多精が生じうる前提条件を満たすためには,2本目の花粉管を高頻度で誘引し,かつ受精後の助細胞が胚乳に吸収をされないようなタイプの未知の変異体を用いることが必須であることが明らかとなった.
3: やや遅れている
ein2-5変異体の胚珠では,当初予想していたように精細胞が受精卵と初期胚乳の間に放出されるのではなく,胚乳の内部に到達していた.何が起こっているのか,詳しく確認するため,花粉管のサイトゾルを赤色蛍光タンパク質のtagRFPで,ミトコンドリアを緑色蛍光蛋白質のGFPでラベルした形質転換体を用いて同様の実験を行ったところ,これらラベルした花粉管内容物の全体が胚乳へと流入したことが示唆された. ein2-5変異体の胚珠において残存助細胞の不活性化自体は遅れるものの,助細胞胚乳融合自体は起こる.そのため,おそらくは残存助細胞中に放出された精細胞が融合部位を通過して胚乳に到達したものと思われる.結果として,ein2-5変異体は多精拒否変異体のスクリーニングに用いる親株として適当ではないことが示された.
今後はまず,ein2-5変異体に代わる多精拒否変異体の親株となりうるシロイヌナズナを作出する.この株は,単に2本目の花粉管の誘引率が高いだけではなく,助細胞胚乳融合にも欠損を示すものであることが必要と考えられる.現在,助細胞のミトコンドリアをGFPでラベルした形質転換体を親株として変異原処理を行い,そのような表現型を示す変異体を分離する準備を進めている.このようにして当初の研究計画を進めるだけではなく, ein2-5変異体で新しく発見された胚乳への精細胞の放出という現象についても論文で報告ができるように研究を進めたい.具体的には,野生型植物でも同様の現象が起きているのか,また,この異所的な精細胞の放出によって,種子発達へどのような影響が生じるのかなどについて明らかにする.
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http://first.lifesciencedb.jp/archives/10061.