研究課題/領域番号 |
15K14544
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷 あきら 京都大学, 理学研究科, 教授 (40183082)
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研究分担者 |
細川 陽一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (20448088)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞応答 / 力学シミュレーション / 原形質流動 |
研究実績の概要 |
植物が外力に応答することは古くより知られるが、定義された力を加えた細胞を直接観察することは困難であった。本研究では、我々が開発した細胞圧迫装置を用いて、生理学的手法に物理学的手法を組み合わせることで、植物細胞が継続的に与えられた中程度の外力に応答する原理の解明をめざす。 1)細胞圧迫実験系の確立:本年度は、我々が開発した細胞圧迫装置を用いて、圧迫の前後の細胞形状を、共焦点レーザー顕微鏡で連続光学切片観察を行うことにより詳しく調べ、組織内での細胞の位置や圧迫前の細胞形状と、圧迫後の変形の仕方の関係や、タンパク質流動性低下との関係を明らかにした。さらに、フェムト秒レーザー刺激によって細胞に局所的な傷をつけることで細胞質の状態が局所的に変化することを見出した。 2)細胞圧迫応答の植物生理学的解析:細胞を圧迫された状況が長らく続いた場合に細胞にどのような変化が起こるかを観察した。その結果、細胞質タンパク質の流動性が数時間後には回復する例が多いことがわかり、刺激に対する応答は一過的であることが示唆された。また、圧迫に対する応答に、植物が傷害を受けた時に出るとされる植物ホルモンであるジャスモン酸応答の有無を、マーカータンパク質の挙動を観察することによって行ったが、圧迫しない対照試料でもジャスモン酸応答が観察され、圧迫に対する応答があるかどうかは不明であった。 3)計算機シミュレーションを利用した外力応答の解析:昨年に引き続き、共焦点顕微鏡によるZ-軸スキャンを詳細に行い、多数の細胞について圧迫前後の形状を計測した。また、観察の結果、胚軸の表皮の細胞列の違いによって圧迫前後の形状が異なることが分かった。この結果により、このような細胞列による変形応答の違いをモデル化することが有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)細胞圧迫実験系の確立 昨年度の実験結果から、本研究の予算で外から加えている圧力を必要とされる精度で測定することは困難なことが判明した。そこで、本年度は方針を転換し、細胞に局所的に力を加え、変形の様子を詳しく測定することを実施した。その結果、圧迫前後の細胞の位置や形状によって、圧迫後の形状や細胞質の流動性応答が異なることが分かった。また、フェムト秒レーザー刺激によって細胞に局所的な傷をつけることで細胞質の状態が局所的に変化することを見出した。 2)細胞圧迫応答の植物生理学的解析 昨年度、細胞質の流動性の変化にCa2+イオンが関与するかどうかを、レポータータンパク質を用いて調べたが、はっきりとした結果は得られなかった。本年度は、長期間圧迫状態におかれた細胞の応答を観察したところ、流動性は数時間で次第に回復することを示唆する結果を得た。何らかの生理的な変化(例えば細胞壁構造の組み換え)が進行したと考えられる。一方、傷害刺激に関わるとされる植物ホルモンであるジャスモン酸の応答をマーカータンパク質を用いて調べたが、はっきりとした結果は得られなかった。また、フェムト秒レーザーによる傷に対する細胞応答について、細胞骨格がどのように関わるかを調べるための実験を開始した。 3)計算機シミュレーションを利用した外力応答の解析 本年度は、細胞単位の変形に集中し、外圧に対して細胞がどのように変形するかを詳しく解析した。現在、これらのデータの数値化を進めている。残念ながら本年度中にシミュレーションをすることはできず、今後の課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)フェムト秒レーザーに対する応答 フェムト秒レーザーによる傷害に対する局所応答については、微小管やアクチン繊維をラベルした植物を用いて、これらの構造が細胞質で見られた傷害応答にどのように関わるかを調べる。また、この傷が、細胞外の高分子の取込に関わるかどうかを蛍光ラベルしたデキストリンなどを用いて調べる。 (2)計算機シミュレーション 本年度の研究により細胞変形に関する基礎的な3次元数値データが集まりつつあるので、残りの時間で可能な限りこの変形のモデル化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、外力と細胞変形の関係を数値的に明らかにするとともに、光受容体を含む各種タンパク質の外力応答と、その生理学的な意義を調べる予定であった。その過程で、当初の計画にあった圧迫装置に加えて、我々が保有するフェムト秒レーザーが、細胞に外力を与えるもう一つの方法として有力であることが分かり、その実験も並行して進めることとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
フェムト秒レーザーを用いた力学刺激実験に用いる植物を栽培するための器具、植物を処理するための薬品、レーザー処理のための部品などの消耗品を購入する。
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