研究課題/領域番号 |
15K14548
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (80273853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物 / シロイヌナズナ / タイムラプス / 根 |
研究実績の概要 |
土壌からの摩擦や障害が、根の遺伝子発現や細胞動態にどのような影響を及ぼし、それが根の成長をどのように制御しているかは不明である。本研究課題では、横倒し顕微鏡と電動ステージによる自動追尾システムを作製し、伸長中の根の先端部における遺伝子発現や細胞動態を、長時間にわたって継続的にイメージングする技術を開発する。 1.顕微鏡システムの開発: 根は重力方向に従って下方に伸長するため、通常の顕微鏡に付属する水平な観察ステージで伸長させると、根が迷走して追尾できない。この問題を解決するため、市販の倒立顕微鏡を横倒しに固定して観察ステージが垂直に立つようにした。これにより顕微鏡の光軸は水平となる。電動ステージを導入し、制御コンピューターからの信号によりXY軸方向に精密に動作するようにシステムを構築した。根の明視野像を記憶させ、この形状が常に視野の中央に位置するようにステージを動作させるプログラムを設定した。 2.観察サンプルの最適化: 細胞膜貫通ドメインとtdTomatoの融合タンパク質を、SRR1プロモーターの制御化で発現させることで、根の全細胞層で細胞膜が赤色蛍光を発する形質転換シロイヌナズナ植物を観察に用いた。底部がカバーガラスになったチャンバースライド内に寒天培地を作製し、そこに滅菌した種を播種して発芽させた。チャンバースライドを垂直に保持すると、発芽後の根は期待通り寒天培地とカバーガラスの間を下方向に向かって伸長した。これを上記の横倒し顕微鏡に固定し、4分間隔で明視野像と蛍光像を取得した。根は光軸の深度方向(Z軸方向)にも振動しながら伸長するため、観察回ごとにZスタックを取得し、最も焦点の合った画像をつなげ合わせることで、タイムラプス動画を作製した。このような最適化により4日間の連続観察が可能となり、根冠細胞の剥離や根の細胞伸長を初めて動画として捉えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究により、伸長中の根端分裂組織における細胞の動態を4日間という長時間に渡って捉え続けることに成功した。この間、根は観察像の中でほとんど静止した状態で撮影されていた。我々の知る限り、このような動画の撮影に成功した例はこれまで存在しておらず、本研究計画の技術的な課題は、ほぼ達成されたと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1.根冠分化の変異体やレポーターラインを用いたタイムラプス観察: 根冠は数層の細胞からなっており、最外層から順に剥離する。この過程を制御するSMBやBRN転写因子の変異体では、根冠の細胞剥離に異常がみられる。これらの遺伝子の機能欠損変異体の根端部をタイムラプス観察し、剥離する細胞の動態を野生型植物と比較する。またBRN転写因子は根冠の外側の1-2層で特異的に発現している。これは未知の機構によって根が外界を認識し、その位置情報に応じてBRNの発現領域を制御していることを示唆する。BRNの転写をモニターできるYFPマーカーを利用し、根冠細胞の剥離によってシフトする細胞と外界との関係が、BRNの転写とどのように相関しているかを調べる。 2.接触刺激の感受からオーキシン極性輸送の変化に至る過程のイメージング: 根の重力屈性にはオーキシン応答の分布が重要な役割を果たしている。根冠で感受された重力方向の変化が細胞膜上のPINタンパク質の配向を変え、結果として生じるオーキシンの不等分布が細胞の偏差伸長を経て根を屈曲させる、というモデルが提唱されている。しかしこのようなメカニズムは、重力の方向を突然90°変えるという自然界ではあり得ない実験によって示されている。一方、自然界で起こる屈性は、障害物に当たった根が側方に伸長する場合や、障害物を避け終えて下向きの伸長を再開する場合などである。このような自然な伸長過程でオーキシンの分布や各細胞の伸長がどのように変化しているのかを、タイムラプスイメージングにより明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初は、電動ステージの制御用にMetaMorphプログラムを購入することが必要であると考えて、ソフトウェアの購入費を計上していたが、Nikonの顕微鏡に付属する画像解析プログラムをバージョンアップすることで用が足りることが明らかとなった。このため、MetaMorphプログラムの購入経費が不要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
観察システムが完成に近づいていることから、今後は観察サンプルの作製や実際のタイムラプス観察が中心となる。前者については、遺伝子コンストラクションや形質転換植物を作製するために研究補助員を雇用するので、繰越金はその給与に充てる。そのほかには、成果発表のための旅費や論文投稿に有効利用する予定である。
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