研究課題
ラン科植物の菌根共生系は、一般的な相利共生の菌根共生系とは逆に、菌類から植物に炭素化合物が供給されるという菌寄生性の特徴をもつ。単子葉植物、双子葉植物問わず、相利の共生系の確立には共通の遺伝子群が必要であることが報告されているが、ラン科植物を含む菌寄生性の共生に関する分子レベルでの知見は全く無いのが現状である。本研究では、「ラン科植物の”菌寄生性共生”の成立には相利共生の共通共生経路の遺伝子群が必要か?」についての回答を得ることを最終目標とし、独自のラン科植物に関するこれまでの研究成果と共に、既存の相利共生の共通共生遺伝子群を活用した新しい観点からの研究を、様々な分野の研究者と共に展開する。タルウマゴヤシとイネの優性抑制型POLLUX(DMI1)遺伝子を作成し、ミヤコグサの毛状根形質転換系を用いてこれら遺伝子を過剰発現させた毛状根に根粒菌を接種した結果、これら遺伝子の過剰発現により根粒共生が抑制される傾向が観察された。また、シランのプロトコーム様体(PLB)調製期間の短縮を目的に、実生の根からではなく、液体培養による種子から直接PLBを誘導することで、発芽後8週程度でPLBが大量に得られる実験系を構築した。さらに、RT-PCR法によりシランのCCaMKとPOLLUXの全長cDNAをクローニングし、CCaMKについてはミヤコグサのcccamk-3変異体の変異を相補できることを根粒共生の表現型を指標に明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に予定した研究の中で、「マメ科植物・イネの共通共生経路遺伝子を用いたラン科植物の”菌寄生性共生”系の解析」と「シランの共通共生経路遺伝子オーソログの機能解析」については、菌根共生関連の表現型解析以外については概ね実施し、結果が得られた。「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」については、予定していた方法とは異なるアプローチから大量のPLBを短期間で調整できる実験系を構築できたが、本実験系の構築に時間がかかり、アグロバクテリウムの菌株と感染のタイミングを検討するといった遺伝子組換え実験系の改良には着手できなかった。
「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」が本研究全体の遂行に大きく関わるため、平成28年度は本研究を重点的に実施する。既にシランに導入する予定の前述の遺伝子群については単離とミヤコグサへの遺伝子導入による根粒共生に関する表現型解析が概ね完了している。ただデータの反復や正確性に欠く部分があるため、平成28年度はデータの信頼性を向上させると共に、まだ着手できていない菌根共生に関する表現型の解析を行う。
平成27年度にグロースチャンバーを購入予定であったが、他の予算で購入したグロースチャンバーを利用することができるようになったため、他に必要な備品は購入したが、次年度使用額が生じた。また、平成28年度に「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」に関する研究を行う際に大規模に組織培養を行うため、技術補佐員の雇用が必要と予想されたため、次年度使用額として予算を残した。
「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」に関する研究を行う際に大規模に組織培養を行うため、その研究を補助する技術補佐員の雇用のために使用する。
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