研究課題
ラン科植物の菌根共生系は、一般的な相利共生の菌根共生系とは逆に、菌類から植物に炭素化合物が供給されるという菌寄生性の特徴をもつ。単子葉植物、双子葉植物問わず、相利の共生系の確立には共通の遺伝子群が必要であることが報告されているが、ラン科植物を含む菌寄生性の共生に関する分子レベルでの知見は全く無いのが現状である。本研究では、「ラン科植物の”菌寄生性共生”の成立には相利共生の共通共生経路の遺伝子群が必要か?」についての回答を得ることを最終目標とし、独自のラン科植物に関するこれまでの研究成果と共に、既存の相利共生の共通共生遺伝子群を活用した新しい観点からの研究を、様々な分野の研究者と共に展開する。シランのCCaMKオルソログがミヤコグサのccamk-3変異体の変異を相補できることを根粒共生だけでなく、菌根共生の表現型を指標に明らかにした。また、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqによるシランのトランスクリプトーム解析を行った結果、菌根共生により一般的な共生に関連する複数の遺伝子のオルソログの発現が誘導されることが明らかになった。また、イネの菌根共生のマーカー遺伝子のオルソログがシランの菌根共生時にも発現が顕著に誘導されることも明らかにした。これらの結果から、ラン科植物の”菌寄生性共生”の成立には相利共生の共通共生経路の遺伝子群が必要である可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定した研究の中で、「シランの共通共生経路遺伝子オーソログの機能解析」については、シランのCCaMKについて、前年度着手できていなかった菌根共生関連の表現型の解析を実施し、結果が得られた。「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」については、ラン科植物のプロトコールを参考に、昨年度構築済のPLBを短期間で調製できる実験系を用いて構築を試みたが、うまくいかなかった。シランにアグロバクテリウムを用いた遺伝子導入法をそのまま適用するのは困難であると思われるため、異なる遺伝子導入法を検討する必要があると考えられる。
シランに導入する予定の遺伝子群については単離とミヤコグサへの遺伝子導入による機能解析が概ね完了している。そのため、「シランの効率的な遺伝子組換え実験系の確立」が本研究全体の遂行に大きく関わると考えられる。現在別プロジェクトで利用している遺伝子導入法は宿主への特異性を考えずに適用可能なので、本法を利用して平成29年度も本研究を重点的に実施したい。ただ、本研究で目的である“「ラン科植物の”菌寄生性共生”の成立には相利共生の共通共生経路の遺伝子群が必要か?」についての回答を得る“については、別アプローチにてほぼ回答が得られている。現在論文を執筆しており、本論文を最終年度となる次年度中に査読付きの国際誌へ掲載したい。
予定していた出張の旅費を急遽取りやめたため、次年度使用額がその分生じた。
予想より早く本研究の成果が得られたので、成果に関してまとめた論文を最終年度に国際雑誌に投稿する予定にしており、その出版に係る費用の一部として使用する予定である。
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