研究課題/領域番号 |
15K14551
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高橋 裕一郎 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (50183447)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 光合成 / ペプチドタグ / 光化学系1複合体 / 葉緑体電池 / タンパク質工学 / 葉緑体形質転換 / クラミドモナス / 光電池 |
研究実績の概要 |
光合成タンパク質に光照射下で電力を生成させる葉緑体電池の作製を進めた。光合成電子伝達系で光エネルギー変換反応を担う光化学系1複合体を緑藻クラミドモナスから単離すると、金電極によく結合したが、光照射下での電力発生をはほとんど検出されない。これは、光化学系1複合体の電極への結合方向が均一でないためであると考えられる。そこで、クラミドモナスの葉緑体形質転換により、金親和性ペプチドタグ(Au3)をPsaBサブユニットのN末に融合させた光化学系1複合体を発現させたところ、金電極に多く結合し、光照射に伴う電力発生が検出された。しかし、発生する電力がまだ十分に高くないため、本研究では改善を試みた。まず、Au3をタンデムに2つもしくは3つ融合した光化学系1複合体を発現させたところ、光化学系1複合体が蓄積しなくなった。そこで、Au3とPsaBの間にフレキシブルリンカー(グリシンとセリンから構成される6アミノ酸のスペーサー)を挿入した光化学系1複合体を発現させたところ、光化学系1複合体は正常に蓄積し、電極への結合量は改善し、さらに電力発生も増加することが示された。 一方、モデルタンパクを用いた実験から新たなペプチドタグAu13が金電極への結合効率が高いことが示された。そこで、Au13をPsaBのN末に融合させた形質転換体を作製した。光化学系1複合体の蓄積も活性も正常であったため、これを用いて葉緑体電池の作製を進めている。 次に、PsaBのN末以外にペプチドタグを安定に融合させるため、葉緑体遺伝子にコードされるPsaCのストロマ露出領域にAu3タグを融合させた3種類の形質転換体を作出した。得られた形質転換体のうち、1種のみが光化学系1複合体を蓄積し、機能もほぼ正常であった。この光化学系1複合体を利用した葉緑体電池を作製中で、電力発生効率は近いうちに明らかにできる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金電極に親和性をもつペプチドタグを2種類単離することができた(Au3とAu13)。また、蓄積量や活性に影響をほとんど与えないペプチドタグ挿入部位を PsaBのN末端とPsaCのストロマに露出した領域に見出すことができた。また、フレキシブルリンカーの利用が効率的であることも明らかにした。これらに成果は、目標としていた成果であり、本研究課題では鍵となるステップであるため、この段階で課題が順調に進展していると判断される。特に、PsaCへのタグの挿入部位は、最終電子受容体の近傍であり、電極に電子を効率的に渡すことができるはずである。この結果は、電力だけでなく水素発生装置を作製する上でも重要な成果である。 一方、酸化インジウムスズと白金への親和性ペプチドのスクリーニングは行わなかった。これは、金電極への研究が順調に進んでおり、水素発生も金ナノ粒子を用いることに可能であることが明らかになってきたため、資源と労力を金電極に集約する方がよいと判断したからである。
|
今後の研究の推進方策 |
2つの金親和性タグ(Au3とAu13)が有効であることを明らかにしたので、これらを融合した光化学系1複合体を利用した葉緑体電池の精嚢調査を継続する。さらに、ペプチドタグの挿入部位をPsaBのN末とPsaCのストロマ露出領域に見出したので、この2カ所にペプチドタグを融合した光化学系1複合体を発現する形質転換体を作出する。2つの金親和性タグを利用して、これまで以上に光化学系1複合体の電極への結合量を増加させ、結合の配向をより均一にし、より高い電力発生を示す葉緑体電池の作製を実現したい。また、電力発生だけでなく、水素発生を実現するため、金親和性タグを融合した光化学系1複合体を金ナノ粒子に結合させ、光照射下で水素発生させる装置の作成に着手する。 以上のように、金親和性タグを融合させた光化学系1複合体を用いて、電力を発生させる葉緑体電池と水素を発生させる水素発生装置のプロトタイプを完成させたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
金親和性ペプチドタグの研究が順調に進展したため、酸化インジウムスズおよび白金に親和性を示すペプチドタグのスクリーニングを行わなかったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
金親和性ペプチドタグの研究が順調に進展したため、発生する電力の測定だけでなく、水素発生装置の作製および水素発生量の測定を活発に行う予定である。したがって、次年度使用額を活用して研究を進展させる。
|