研究課題
ミトコンドリアは酸化呼吸のみならず、アポトーシス・酸化ストレス・老化など様々な細胞機能で重要な役割を果たしている。本研究では、植物細胞のプログラム細胞死やミトコンドリア品質保証におけるCa2+シグナルの役割を解明し、植物の多様な細胞応答を統御するミトコンドリアCa2+を中心とした新しい制御ネットワークを提案することを目的に研究を行った。平成28年度は、ミトコンドリアレトログレードシグナル(RS)とCa2+制御の関係について研究を進めた。DBMIBは、光合成のシトクロムb6f複合体とミトコンドリアのbc1複合体に作用する電子伝達阻害剤である。DBMIB処理によって、感染防御関係遺伝子やキシログルカン転移酵素酵素などの細胞壁調節酵素の発現が強く誘導されることを明らかにした。そこで、DBMIBによる遺伝子発現誘導に関わるRSの実体を検証した。まず、DBMIBによる遺伝子発現誘導が暗条件や切断根でも見られることから、DBMIBによる発現制御にミトコンドリアRSが関係することを明らかにした。また、DBMIBが細胞質ゾルのCa2+応答を引き起こし、このCa2+応答がミトコンドリアに依存することを示した。実際、DBMIB誘導遺伝子の発現が細胞質ゾルCa2+濃度上昇によって活性化されることも明らかにした。これらの結果から、ストレスによるミトコンドリア機能傷害によってミトコンドリアRSが生じ、細胞壁調節酵素などの遺伝子発現が制御されていること、ミトコンドリアRSにCa2+シグナルが関係する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
ミトコンドリア電子伝達阻害が細胞質ゾルのCa2+濃度上昇を引き起こすことを見出し、新しいミトコンドリアレトログレードシグナルの可能性を示すことができた。
ミトコンドリア電子伝達阻害が引き起こす細胞質ゾルのCa2+濃度上昇に、これまでの研究で同定しているミトコンドリア内膜のCa2+輸送制御因子MICU1や機械刺激応答チャネルMSL1が関係する可能性を明らかにし、ミトコンドリアによるCa2+制御の分子実体を明らかにすることを目指す。
RNAseq解析用のサンプル調整が遅れ、平成29年度に解析することにしたため。
前年度に行わなかったRNAseq解析を進める。そのために次年度使用額を用いる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件)
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