本研究計画は、オジギソウ運動器官(葉枕)において運動時に生じる個々の細胞の形態変化を器官全体レベルで包括的に解明することにより、おじぎ運動のメカニズムを解明することを目標とする。この目的を達成するために、本研究では「急速凍結置換法を用いた運動前後の器官の瞬時固定」および「植物組織の透明化手法を用いた組織深部観察」を用いたアプローチを考案し、そのための実験条件の最適化を行った。その過程において、我々は「開いた状態で固定したオジギソウ葉枕が、染色・透明化の過程で自発的に閉じてしまう」という現象を見出した。これは、「組織レベルで蓄積された機械的弾性力が存在し、これがおじぎ運動に役割を果たす」という我々の仮説を裏付ける結果である。一方で、この性質は「運動前後の変化を観察する」上での大きな技術的困難となった。我々は、固定・染色・透明化のすべての過程において「水をいっさい用いない」実験手法の開発によりこの困難を克服し、細胞壁の可視化によって運動前後の葉枕の内部構造を詳細に観察できるようにした。並行して、得られた3次元画像から個々の細胞の形状を自動的に抽出・解析するプログラムの開発を行った。これらを用いて運動前後における小葉枕内の細胞の体積比較を行った結果、葉枕収縮側の運動細胞の体積(細胞壁に囲まれた領域の体積)は運動に伴い、最も変化の大きかった最外層において平均39%減少し、一方で非収縮側の運動細胞の体積は同じく最外層において平均18%増加することを見出した。これらの結果は、オジギソウ運動における細胞の体積変化を包括的かつ定量的に解析した初めての例であり、そのメカニズムの解明に大きく寄与するものである。今後、これらの解析技術を用いて「機械的弾性力」および「浸透による水の流出」のそれぞれがおじぎ運動に果たす寄与の割合を定量的に明らかにし、その成果を本年度中に論文として発表する予定である。
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