研究課題
私たちは、生物が潜在的に備えているバリアー能を模倣・利用するという新しい視点から革新的電子顕微鏡技術(NanoSuit法)の開発に取り組んできた。既にこの方法を五界説で示される原核生物、原生生物、菌類、植物、動物に適用し、さらに切り出した組織等をFE-SEMで高解像度/高分解能観察することに成功し、これまでとは全く異なる画像を得ることに成功していた。特に、発生や再生過程において発現する『微小仮足』は、従来の形態学の技術では全容を捉えることができなかった未知の構造体であった。本課題では、再生能力が高い腔腸動物ヒドラを主な研究対象とし創傷治癒にはじまる再生初期における微小仮足を継時的に解析した。ヒドラの頭部をメスで切除すると体腔中央に大きな穴が生じるが、1時間ほどで穴は塞がって見えなくなる。この過程を超微細構造に注目して調べると、再生部位にのみ直径が数百nmと細く、且つ全長が20~50μmに達する微小仮足が見られた。再生過程をさらに詳細に解析すると、微小仮足は再生直後にはほとんど見られないが、再生15分後には多数発現していることが確認された。ところが、再生開始50分後になるとその発現頻度は減少に転じることが明らかになった。このような微小仮足の継時変化は、(1)傷口が修復されるタイムスケールと一致(2)アクチンの重合により制御されている、ことなどから、微小仮足の機能として、ひとつには傷口修復の駆動力としての働きが考えられた。また同様の微細構造は、ヒドラ以外の動物の、発生における器官形成や組織再生過程において、あるいは活発に活動するガン細胞においても確認された。このような結果から、微小仮足が発生や再生において新しい調節機構を担っている可能性が示唆された。
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R Soc Open Sci
巻: なし
10.1098/rsos.160887
表面科学
巻: 37(5) ページ: 201-206
表面技術
巻: 68(4) ページ: 178-180
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG02H5O_V00C17A3TJM000/