研究課題
ミトコンドリアの母性遺伝は、様々な真核生物に共通にみられる現象である。母性遺伝のメカニズムとして、父方配偶子(精子)の大きさが母方配偶子(卵子)と比較して極端に小さく、精子形成過程においてmtDNA量が減少することや、ユビキチンやオートファジーによる受精後の父方ミトコンドリアが選択的に分解されることが重要であると考えられている。しかし、近年、雌雄同型配偶子を持つ真正粘菌(Physarum polycepharum)において、接合直後に父方ミトコンドリア内に存在するmtDNAが選択的に消失することが示された(Moriyama et al. 2003)。さらに、雌雄異型配偶子を持つメダカでも同様の事象が観察され(Nishimura et al. 2006)、生物普遍的な現象であることが分かった。また、この受精後の父方mtDNAの選択的消失は、ユビキチンやオートファジーによるミトコンドリア分解よりも必ず先立って生じており、母性遺伝の引き金となる重要なステップであることが予想される。しかし、その分子メカニズムはほとんど分かっていない。本研究では、大型のミトコンドリア核様体を持つ真正粘菌を用い、セルソーターを応用した「オルガネラソーター」の技術を開発し、接合子内でDNAが消失されつつある父方由来のミトコンドリアを回収し、選択的消失に関わるヌクレアーゼを同定することを目指している。平成28年度は、まず、母性遺伝における父方mtDNAの消失時期を調べるために、あらかじめアメーバのミトコンドリア核様体を生体染色し、接合過程を経時観察した。また、セルソーターを用いてミトコンドリアを分画するために、ミトコンドリアを単離法の改良をおこなった。さらに、接合子から単離したミトコンドリアをセルソーターにかけ、核様体の消失したミトコンドリアの検出およびソーティングの条件検討も行った。
2: おおむね順調に進展している
様々なDNA生体染色試薬を用いたところ、Hoechst33342では、核様体を可視化することができなかったが、SYTO11、SYTO64、SYBR Green Iでは核様体を特異的に可視化することができた。また、SYBR Green Iは、SYTO11よりも輝度が高く、SYTO64よりも退色が遅かったため、SYBR Green Iを用いて解析を行うことにした。経時観察の結果、アメーバを混合して1-2時間目で細胞融合が生じ、2.5-4.5時間目で核膜の融合が生じ、3.5-5時間目で核小体の融合が生じていることが分かった。また、核様体の消失は、核小体融合期に観察された。経時観察の結果、アメーバを混合して1-2時間目で細胞融合が生じ、2.5-4.5時間目で核膜の融合が生じ、3.5-5時間目で核小体の融合が生じていることが分かった。また、核様体の消失は、核小体融合期に観察された。また、すでに報告された単離法では、単離バッファー内で細胞が急速にシストと呼ばれる固い壁をもつ状態になるため、単離が困難であったが、単離バッファーに含まれるスクロースをマンニトールに変更し、4℃に冷却することでシスト形成を大幅に遅らせることに成功した。その結果、ミトコンドリアを大量に単離できるようになった。さらに、アメーバを混合して、5時間目の細胞から単離したミトコンドリアをSYBR Green Iとミトコンドリア染色試薬であるMito Tracker Redで染色し、セルソーターにかけた。セルソーターのレーザーパワーやサンプルプレッシャーを検討することで、核様体が消失したミトコンドリアと消失前のミトコンドリアとを区別して検出することができた。しかし、ソーティングの過程で、何らかの原因により、ミトコンドリアが回収できなかった。
単離バッファーの改良によりミトコンドリアを大量単離し、セルソーターにかけ、核様体の有無でミトコンドリアを区別して検出することに成功した。しかし、ソーティングの過程で、ミトコンドリア回収ができていないため、今後ソーティング条件をさらに検討する必要がある。また、ソーティングがうまくいかない場合でも、真正粘菌のアメーバ(n)と接合子(2n)からミトコンドリアを単離し、比較プロテオーム解析により接合子特異的にミトコンドリア局在するタンパク質を同定することを試みる。また、それら候補タンパクの発現をRNAiにより低下させ、母性遺伝に影響があるか調べる。さらに、最近線虫で同定された母性遺伝に関連しているとされるヌクレアーゼ(ENDOG)と相同性の高いタンパク質を真正粘菌で探索し、そのタンパクの機能解析も行う。
予定していたプロテオミクス解析を次年度に変更したため
今年度にプロテオミクス解析を行う。
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Chem. Asian J.
巻: 12 ページ: 233-238
10.1002/asia.201601430