研究課題/領域番号 |
15K14567
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 一平 東京大学, 大気海洋研究所, 研究員 (50727097)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 動物生理学 / 潜水生理学 / 潜水動物 / 循環調節ホルモン / 代謝調節ホルモン / 鰭脚類 / バイオロギング / アザラシ |
研究実績の概要 |
本研究では、動物搭載型採血装置を用いてアザラシの水中代謝調節機構を解明することを目的とし、初年度の研究においては、実験動物を所有する英国セントアンドリュース大学の海生哺乳類研究部門との共同研究を実施した。初年度の研究によって、当該採血装置を用いることで実験動物のストレス状態を軽減し、陸上と水中における循環調節ホルモンの分泌動態を比較することに成功した。 従来、潜水動物から血液サンプルを取得するためには、動物を拘束または麻酔し、動けない状態にしてから注射針を用いて血液サンプルを取得していた。物理的な拘束や麻酔による不動化は、動物に対してストレスを与えてしまう。ストレス状態を定量化する手法として、コルチゾルの分泌量を測定する方法があるが、このホルモンはストレスのバロメーターとなるだけでなく、循環および代謝調節ホルモンとしても機能する。そのため、このホルモンの変動範囲を知ることは、潜水動物における循環および代謝調節のメカニズムを解明する上で非常に重要となる。初年度の研究では、動物を拘束した際と動物の背中に当該採血装置を用いた際の2つの実験状態を用意し、陸上におけるストレスホルモンの血漿中濃度を比較した。その結果、採血装置を用いることで、ストレスホルモンの分泌量を抑えられることを明らかにした。また、採血装置を用いた状態で陸上と水中における3種類の循環調節ホルモン(AVP、ANP、AngII)の分泌量を比較した結果、AVPとANPでは分泌量に変化が見られなかったが、AngIIでは、他の陸上哺乳類と同様の変動傾向が見られた。陸上と水中における最大の違いは、重力に対する浮力補助の有無となり、水陸両用の生活スタイルを持つ鰭脚類では、浮力変化による循環調節機構は腎臓由来の分泌ホルモンによって調節されていることを示唆する結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の研究によって採血装置を用いることで代謝および循環調節に寄与するストレスホルモン(コルチゾル)の分泌量を大幅に軽減できることを確認した。また、3種類の循環調節ホルモンの陸上と水中における分泌量の比較から、水陸両方の生活に適応したアザラシでは、ヒトとは異なる循環調節機構を持つことが確認された。浮力の有無による循環調節ホルモンは、ヒトや陸上動物で見られるANPやAVPにおける分泌量の変化はなく、Ang IIにのみ僅かな変化が見られた。水中と陸上における循環調節ホルモンの分泌動態は初年度の研究によって把握できたので、第二年度の研究では、水中での運動を伴った際の代謝量の変化に注目する。潜水動物は、水中では外部からの酸素供給ができないため、体内の酸素を効率よく使うために脈拍数を低下させ、身体の末端部への血流を制限することが生理反応として知られている。しかし、どのようにしてそれを可能にしているのかは潜水時の動物から血液を採取できなかったため解明されていない。本研究で用いる採血装置を用いてそのメカニズムを解明する。初年度の研究では、当初、遊泳を伴う潜水時の血液サンプルを取得する予定であったが、実験を実施しているセントアンドリュース大学の海生哺乳類研究部門の実験プールにて故障があったため、初年度の研究では、同部門が所有する小さな実験プールにて浮力補助の有無による循環調節ホルモンの分泌動態を比較することを目的とした。そのため、当初、初年度に予定していた遊泳可能なプールを用いた実験を第二年度に行うため、進捗状況は「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に予定していた水中遊泳を可能とする実験プールを用いた実験を、セントアンドリュース大学の海生哺乳類研究部門にて第二年度の前期に行う。また、初年度に得られた研究成果に関しては、現在、原著論文として投稿準備を進めており、第二年度の成果と併せて11月に沖縄にて開催される国際動物学会での発表を予定している。
|