研究課題/領域番号 |
15K14569
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
藍 浩之 福岡大学, 理学部, 助教 (20330897)
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研究分担者 |
池野 英利 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (80176114)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 行動学 / 神経科学 / 昆虫 / 生理学 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、ジョンストン器官への振動刺激に応答する介在ニューロンを網羅的に同定し、119個の振動応答性ニューロンを形態学的、生理学的に同定した。そのうちジョンストン器官一次中枢の局所ニューロンが73個、出力ニューロンが30個、両側性ニューロンが16個であった。また、そのうち尻振りダンスコミュニケーションの際に生じるパルス状の振動に応答するニューロンの応答パターンを詳細に調べたところ、以下のことが判明した。 1.背側葉局所介在ニューロンには、尻振りダンスで生じるパルス振動に特異的に応答するタイプ(DL-Int-1)と、様々なパルス振動に同様に応答するタイプ(DL-dSEG-medPPL)がある。単一の振動パルス刺激によって生じるDL-Int-1のスパイク数と頻度は、パルス長に依存して増加するが、スパイク発火潜時はパルス長に関係なく一定であった。またパルス刺激後のDL-Int-1のスパイク発火潜時もパルス長に関係なく一定であった。 2.背側葉出力ニューロンで、尻振りダンス振動に特異的に応答するタイプは、前大脳側葉に投射、終末する。単一の振動パルス刺激によって生じるDL-Int-2のスパイク数と頻度は、パルス長に依存して増加するが、スパイク発火潜時は振動幅に関係なく一定であった。またパルス刺激後のスパイク発火潜時も振動幅に関係なく一定であった。これらの結果、DL-Int-1とDL-Int-2は、ともに尻振りダンス特有のパルス振動に特異的に応答するだけでなく、単一のパルス刺激に対する応答様式が類似していることが分かった。ただし、DL-Int-1は、パルス刺激によって生じるスパイク後にIPSPを伴い、標本によってはスパイクが生じず、ISPSのみを生じる場合があった。 3.背側葉両側性ニューロンは、単一振動パルス刺激で生じるスパイク発火潜時が、振動幅に関係なく一定であり、また連続パルス刺激に対しても、同様にスパイク長に関係なく一定であった。 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.平成28年度は尻振りダンスで生じるパルス状振動刺激に対する振動性応答ニューロンの応答様式を網羅的に、統計的に解析した。その結果、DL-Int-1と同様の投射パターンを持つが、細胞体とそこから生じる軸索の走行経路の異なるDL-dSEG-medPPLを同定し、その振動応答様式を比較した結果、DL-Int-1は尻振りダンス特有の振動パルスの時間パターンに特異的に応答するのに対し、DL-dSEG-medPPLは様々な時間パターンのパルス刺激に応答するブロードなタイプであった。 2.DL-Int-1, DL-Int-2, Bilateral DL-dSEG-LPの単一振動パルス、および連続振動パルスのそれぞれの刺激で生じる応答特性を、詳細に調べ、発火スパイク数、スパイク頻度、発火潜時の比較を行った。 3.上記1,2の結果を元に、現在、尻振りダンス刺激を処理する神経回路モデルを作成し、計算機シミュレーションを行うことで、推定される神経回路仮説の検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.平成28年度の研究から、尻振りダンスで生じるパルス状振動刺激に応答するニューロンの応答様式を網羅的に解析した。これらの結果を元に、現在、可能性のある神経回路モデルを作成し、それらの応答特性を検証している。 2.尻振りダンスの距離符号化に関わる候補ニューロンが、研究を進める過程で新たに判明し、その応答様式を網羅的に調べる必要があったので、平成28年度は上記1を精力的に進めた。平成29年度は、上記1に加えベクトル情報統合ニューロンを形態学的、電気生理学的に同定する。頸部の左右両側からピエゾ素子振動刺激装置で圧刺激を与えると同時に、触角ジョンストン器官への尻振りダンスで生じる空気振動を模したパルス状振動刺激を与え、応答様式を調べる。 3.それと並行して、平成28年度に同定した振動応答性ニューロンの免疫組織学的実験を進め、ニューロン間の結合状態を調べ、尻振りダンスで符号化された距離情報解読に関わる、興奮性および抑制性の神経回路モデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度においては、手持ちの予算にてデータ解析関連の環境を整えることができたために、執行しなかった予算は次年度への繰り越しすることとなった。また、繰り越した予算については、最終年度、学会発表、論文執筆に必要となるソフトウェア(MS Office professional)の購入の一部として使用する。
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