通常、甲殻類は外骨格に色素を持ち、紫外線から身を守っているが、光の届かない深海熱水域に生息するゴエモンコシオリエビは外骨格が白く、色素を持たない。しかしながら、これまでの研究でゴエモンコシオリエビは外骨格に蛍光物質を含むことが判った。そして、ゴエモンコシオリエビはこの蛍光物質から発せられた光を触覚で感知して仲間を認識し、群集を形成していると予想した。そこで、本研究では外骨格に含まれる蛍光物質を同定することと生理的意義を明らかにすることを目的とした。 平成27年度より蛍光物質の抽出と精製を行い、平成28年度にはNMRを用いた蛍光物質の構造解析を行った。しかしながら、抽出に用いたトリエチルアミンが蛍光物質と相互作用し、それらの混合物として構造解析したため、蛍光物質の構造を決定できなかった。そこで、外骨格から蛍光物質を抽出する際、トリエチルアミンを用いない抽出方法を再検討し、その方法を確立した。さらに、HPLCを用いた抽出蛍光物質の精製方法を確立し、近々、NMRを用いた蛍光物質の構造解析を行う予定である。また、これまで深海熱水域の動物における光感知実験には死んだ動物が用いられていたが、本研究では生きた深海動物が用いられた。しかしながら、本研究では触覚の有無にかかわらず、ゴエモンコシオリエビにおいて有意な光感知行動を見出すことができなかった。一方で、ゴエモンコシオリエビはエラの近くにある付属肢を用いて水流を起こし、腹側の体毛に付着する外部共生菌の代謝活性を増強させることや外因性の水流を求めて群がることが実験室の行動実験から証明された。本研究からゴエモンコシオリエビがどのように仲間を認識するかは分からなかったが、行動実験によって外因性の水流が群集形成の要因となることが強く示唆された。また、蛍光物質の生理的意義は今後、その構造を決定することで明らかにしたいと考えている。
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