研究実績の概要 |
昨年度までの結果から, 転写活性化因子VP64を用い, 線虫C. elegansの単一遺伝子座の遺伝子発現を人為的に活性化させることに成功していた. しかしながら, 今年度のさらなる研究から, VP64では, 同じ遺伝子座であるにも関わらず, 遺伝子発現を活性化可能な神経細胞と活性化できない神経細胞の両方が見られた. このことから, 単一の遺伝子座においても神経細胞ごとにクロマチン構造が異なっている可能性を予想した. そこで, 今年度は, TALE-VP64の技術を応用し, エピゲノムを人為的に制御することを試みた. 具体的にはTALE-VP64のVP64部位をヒストンH3K27アセチル化酵素CBP1やヒストンH3K4脱メチル化酵素LSD1などのエピジェネティックファクターで置換した種々のTALE-epigenetic factorを作製した. このDNAを線虫の特定の神経細胞のみに発現させ, VP64による遺伝子発現制御が不可能であった細胞での活性化を試みた. 現在までのところ, 予備的結果ではあるが, これらのエピジェネティックファクターでも発現誘導は困難な神経細胞が存在することが示唆されている. この結果は, 1)活性化できない神経細胞では, クロマチン構造が強固に(ロバストに)抑制を受けている可能性, もしくは2)クロマチン構造そのものには神経細胞ごとに大きな違いはないが, 遺伝子発現制御の対象としている遺伝子座が, 神経細胞によっては負のフィードバックにより抑制を受けている可能性を示唆していた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は1)VP64による恒常的な発現制御, 2)エピジェネティックファクターによる恒常的な発現制御, 3)得られた人工転写因子の光応答性への変換, 4)記憶・学習の操作への応用の4つのステップからなり, 昨年度の段階で, 今年度の計画として2)を達成することを目標としていた. エピジェネティックファクターにより, 細胞ごとに発現誘導が行える場合と行えない場合があることは, 当初の予想とは異なる可能性であるが, この可能性はクロマチン構造の違いを反映する興味深い結果でもあり, 最終年度において, 計画3)と4)を行う上で重要な知見と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では上述の3)と4)の達成を目標とする. 光刺激による活性化には, 当初の計画通り, まずDNA結合ドメインであるTALEをCRY2ドメインに融合し, 一方で, VP64やエピジェネティックファクターはCIB1ドメインに融合したコンストラクトを作製する. また, 特定の神経細胞の特定の遺伝子座のクロマチン構造がどのように抑制されているのかについて知見を得るため, その遺伝子座がフィードバック制御を受けている可能性についても検証する.
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