研究実績の概要 |
平成28年度までの結果から, 転写活性化因子VP64による, 線虫C. elegansの単一遺伝子座の遺伝子発現制御の結果, 遺伝子発現を活性化可能な神経細胞と活性化できない神経細胞の両方が見られた. そこで, TALE-VP64のVP64部位をヒストンH3K27アセチル化酵素CBP1やヒストンH3K4脱メチル化酵素LSD1などのエピジェネティックファクターで置換した種々のTALE-epigenetic factorを作製した. また, このDNAを線虫の特定の神経細胞のみに発現させた線虫を作製し, 予備実験を行なっていた. 平成29年度では, この予備実験をもとに, VP64による遺伝子発現制御が不可能であった細胞での活性化の有無について検証を試みた. その結果, 興味深いことにVP64を利用した遺伝子発現制御が不可能であった一部の神経細胞においても, CBP1などのエピジェネティックファクターを利用して, エピゲノムを直接操作することにより, 遺伝子発現制御が可能となった. これらの結果から, まず結論の1つとして, 神経細胞ごとにクロマチン構造状態が異なる可能性を得た. 一方, エピジェネティックファクターを利用してもなお, 遺伝子発現量を変化させることが不可能であった神経細胞も見られた. この結果については, 異なるエピジェネティックファクターの利用により, 遺伝子発現量を操作しうる可能性と, あらゆるエピジェネティックファクターでも操作不可能な可能性があげられる. 後者では恒常的なクロマチン構造の不活性を意味している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の計画は4つのステップからなり, 1)VP64による恒常的な発現制御と2)エピジェネティックファクターによる発現制御の2つの計画については達成された. しかしながら, 3)得られた人工転写因子の光応答性への変換と4)記憶・学習の操作への応用可能性検証についての残り2つのステップについては, 平成29年度においても着手できず, また当初予定の論文化まで達成できずに, 研究期間の延長を行なったことから, 研究計画はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の結果から, 確立した手法が単純な遺伝子発現量の操作方法としてだけではなく, 特定の神経細胞のクロマチン構造の「ロバストネス」を調べる方法としても有望である可能性が示された. ここまでの結果に対し, 現在, 論文執筆中であり, 早期の投稿・出版を目指す. 一方, 上述の3)と4)については, 当初の計画通り, まずDNA結合ドメインであるTALEをCRY2ドメインに融合し, 一方で, VP64やエピジェネティックファクターはCIB1ドメインに融合したコンストラクトを作製し, 線虫に強制発現する. この得られた線虫が光刺激のない状態で, 強制発現遺伝子の悪影響を受けずに, 通常の野生株と同様の記憶・学習能を有するかどうかを確認する. この研究を将来的なさらなる論文化へとつなげる予定である.
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