研究課題/領域番号 |
15K14576
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
平井 和之 杏林大学, 医学部, 講師 (70597335)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 単為生殖 / 中心体 / 受精 / ゲノム / 紡錘体 |
研究実績の概要 |
有性生殖を行う生物種において、未受精卵からの単為発生は一般に強く抑制されている。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においても、精子がまったく関与しない単為発生の例は自然界由来の系統に見つかっておらず、また実験的に誘発された例もこれまでにない。研究代表者らは、自然界由来のアナナスショウジョウバエ(D. ananassae)の単為生殖系統を用いた細胞学的研究から、このアナナスショウジョウバエにおける未受精卵からの単為発生には、有性生殖系統の卵では決して起こらない、卵細胞質中での微小管形成中心(中心体)の新規合成が必須で、それらを用いて第一回目の体細胞分裂が起こることを見いだしている。そこで当年度、このアナナスショウジョウバエ単為生殖系統の卵細胞質で起こっている細胞学的特徴を、キイロショウジョウバエの未受精卵において再現し、キイロショウジョウバエで単為発生の誘発を試みる実験を実施した。さらに、アナナスショウジョウバエの単為生殖系統のゲノム解析を進め、単為発生に必須な遺伝子の特定に向けた実験を進めた。アナナスショウジョウバエの単為生殖遺伝子を特定し、それをキイロショウジョウバエに応用することは、キイロショウジョウバエにおいて単為発生を作出するために最も有効な方法と考えられる。本研究は、有性生殖の進化の過程で出現した単為生殖が、どのような遺伝的変化によって成立したのかを理解するために重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでにキイロショウジョウバエで未受精卵からの単為発生誘発を試みた2つの実験が報告されているが、いずれも成功していない。ひとつは、本来、卵形成過程の後期に分解されるべき中心体を残留させ、未受精卵に中心体を持たせた例で、これは体細胞分裂より前の減数分裂に問題が生じ、発生しなかった(Pimenta-Marques et al., 2016)。もう一つは中心小体の構成因子または中心小体の複製に関与する因子を卵形成過程で過剰発現させ、卵細胞質に微小管形成中心を多数産生した例であるが、大量な数の微小管形成中心が合成され、有糸分裂が行われない状態で発生が停止した (Rodrigues-Martins et al, 2007)。本研究は後者の例に似ている。ここでは、新規合成される微小管形成中心の数を少なく制限するために、強制発現系のプロモーターを変えて雌性前核の体細胞分裂を引き起こすことを試したが、単為発生は認められなかった。 アナナスショウジョウバエ単為生殖系統のゲノム解析については進展がある。第2染色体の異なる2領域、計~2 Mbpだけがもとの単為生殖系統由来で、残りはすべて有性生殖系統由来のDNAを持つ単為生殖系統を確立した。安定した単為生殖の成立には、この系統の2ヶ所にある単為生殖系統由来の領域がともに必要であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究と他のグループの研究結果から、単為発生の誘発は当初予想した以上に難しいことが分かった。これらすべてにおいて、既知の単為発生胚に特有な、微小管形成中心の新規合成という細胞学的性質を、有性生殖系統の未受精卵で模倣させている。そのため、単為発生に必須な要因がそれ以外にもあった場合、単為発生を引き起こすことが難しいと考えられる。そこで、本研究の最終年度は、同時に進めているアナナスショウジョウバエの単為生殖に必須な遺伝子の特定に集中する。これまでに絞り込んだ2つの染色体領域には合計約200の遺伝子があると推定されている。しかし、そのほとんどについて詳しい情報がないため、それらの生物情報学的解析を進め、アナナスショウジョウバエの有性生殖系統と単為生殖系統、さらにキイロショウジョウバエ間で比較する。その成果をもとにした遺伝的操作により、有性生殖系統の未受精卵から単為発生の作出を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した実体顕微鏡が当初予想額よりも安価であった。実験の進捗がやや遅れたことにともない、実験試薬の購入量が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
補助事業を1年延長して研究を継続することとしたため、引き続き、実験試薬の購入費、旅費、系統維持とサンプル集めのためのアルバイト代に使用する。
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