研究課題/領域番号 |
15K14577
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
田中 誠司 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝研究系, 助教 (50263314)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CUP1 / 遺伝子増幅 / DNA複製開始点 / 出芽酵母 / ゲノム安定性 |
研究実績の概要 |
生命体の全遺伝情報を担うゲノムDNAは、世代を超えて安定に維持されてゆく。これを可能とするために、生物はDNA複製を細胞周期につき一度に制限する制御やDNAダメージ応答等、きめ細かな制御系を備える。一方、出芽酵母の銅耐性因子をコードするCUP1遺伝子のように、そのゲノム情報を積極的に変更(コピー数変化)することで、環境に適応し生存を図るような機構も存在する。このようなゲノム改編戦略は染色体の安定維持にとっては非常に危険であり、両立を可能にしている機構に興味が持たれるが、それらは不明なままである。そこで、CUP1領域をモデル系としてゲノム改編と染色体の安定維持の両立を可能にする分子機構の解明を目指す。 過去の文献・データベースにおいてCUP1遺伝子を含む約2kbの領域は野生型酵母では2コピータンデムに並んだ状態で存在し、その中には複製開始点があるとされる。ただし、複製開始点については、主要な2種類のデータベースにより、その位置が異なるという状態であった。そこでまず、これらの点について検証したところ、①野生型酵母を通常の条件で生育させた場合には、元々6コピーのCUP1領域がタンデムに並んで存在していること、②複製開始点については、染色体外でのプラスミドの複製を指標とするARSアッセイによりその活性を調べたところ、いずれのデータベースが複製開始点としている領域についても、顕著なARS活性を持たないこと、さらには③CUP1領域単独では顕著なARS活性を示さないことが分かった。そこで、過去の情報にとらわれず、解析を一からやり直すこととした。結果、大変興味深いことに、CUP1領域が2コピー以上になると、顕著にARS活性が現れてくることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において述べたように、実際に解析を開始したところ、データベースに記載された、①遺伝子コピー数、②複製開始点の活性、③複製開始点の有無、等、全てにおいて過去に記述された結果と一致しない事実が多数発覚した。これらの齟齬については、詳細かつ厳正な解析がなされていなかったため仕方のないところであり、自分で正確な情報を確定するところから解析を開始することとなった。 これまでに、①2コピーのCUP1リピート領域があれば銅イオンによる遺伝子増幅が起きること、1コピーでは起こらないことが確認できている他、②2コピー以上のリピート領域があれば、顕著な複製開始点(ARS)活性が現れて来ること等の新たな興味深い知見も得られてきているため、残りの研究期間で研究目的であるCUP1領域をモデル系としたゲノム改編と染色体の安定維持の両立を可能にする分子機構の解明に十分迫ることが出来るものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、研究目的達成を目指し、以下の6点を中心に研究を進めてゆく。 ① CUP1領域ゲノム改編(コピー数変化)プロファイルの詳細な解析 ② ゲノム改編(コピー数変化)における相同組換え・非相同末端結合経路の関与の検証 ③ DNA2本鎖切断生成の有無の検証ならびにその生成条件の解明 ④ 複製開始点の必要性の検証ならびにその複製プロファイル・複製開始点活性化機構の解明 ⑤ CUP1解析結果に基づく、ゲノム改編を任意に誘導できるような人工カセットの作製 ⑥ CUP1領域ゲノム改編と全体的なゲノム安定維持との関係性の解明
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要において述べたように、実際に解析を開始したところ、データベースに記載された、①遺伝子コピー数、②複製開始点の活性、③複製開始点の有無、等、全てにおいて過去に記述された結果と一致しない事実が多数発覚した。このため、自分で正確な情報を確定するための実験が解析の中心となったため、試薬・キット類や合成DNA等の試薬をあまり消費しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究目的達成のために、当初計画していた実験を遂行。複製開始点の大まかな領域決定のための各種変異体や同定後の多数の突然変異作製のために多数の合成DNAを作製する。また、これらの実験遂行のために実験補助員を雇用する(4月より雇用)。その他、時間節約の目的で、各種キット類を最大限利用し、迅速な研究の伸展を図る。
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