世代を超えてゲノム情報を安定に維持することを可能とするために、生物は精密なDNA複製制御系を備える。一方、出芽酵母のCUP1領域のように、そのゲノム情報を積極的に変更(コピー数変化)することで、環境に適応し生存を図るような機構も存在する。このようなゲノム改編戦略は染色体の安定維持にとっては非常に危険であり、両立を可能にしている機構に興味が持たれる。そこでCUP1領域をモデル系としてゲノム改編と染色体の安定維持の両立を可能にする分子機構の解明を目指し、解析を行った。 2015年度の解析より、過去の文献・データベースにおいてCUP1領域内にあるとされた複製開始点についての情報が完全に誤りであることが明らかとなったため、同領域の複製活性を示す領域の決定を、一連の部分削除クローン群を作製することで試みたところ、弱いながらもある特定の領域が複製活性を示すことがわかった。この領域は、過去の文献・データベースにおいて示されている領域とは明らかに別の部分であった。昨年度報告したように、CUP1領域の複製活性は、2コピー以上で顕著に現れる。驚いたことに、この部分削除クローンにおいて、活性を特定した領域のみを複数持たせるだけでは複製活性は現れず、複製活性出現のためには、1コピーの完全なCUP1領域を必要とした。また、同領域内には出芽酵母複製開始点で通常観察されるACSと呼ばれる配列が存在していなかった。さらに驚いたことに、この複製活性はCUP1領域内へと in-frameで流れ込むCUP1の隣の遺伝子の存在と関連があることを示唆するようなデータが得られた。これらの結果は、この領域の複製がこれまでに知られているものとは完全に異なる制御を受けていることを示しており、当初の研究目標達成以前に解決すべき多数の疑問点が存在するという驚きの結果が得られた。
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