研究課題/領域番号 |
15K14578
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
城石 俊彦 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 教授 (90171058)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝学 / Y染色体 / エピゲノム / 糖尿病 / 発現制御 |
研究実績の概要 |
申請者らは、西欧産ドメスティカス(dom)亜種由来のY染色体 (Ydom) をB6系統の遺伝的背景に導入したY-コンソミック系統 (B6-Ydom) および東南アジア産キャスタネウスのY染色体(Ycas)をB6系統に導入したB6-Ycas系統をそれぞれ樹立し、糖代謝をはじめとしたエネルギー代謝関連の表現型解析のパイロットデータを得ているが、これまで解析に使用していた遺伝的背景がB6/Jであるため、その遺伝的背景効果によると考えられるエネルギー代謝関連表現型のばらつきが懸念されている。そこで、国際マウス表現型解析コンソーシアムでも使用され、エネルギー代謝関連表現型のばらつきが少ないB6/Nを使用することとした。Y-コンソミック系統の遺伝的背景をB6/Nに置き換えることにより、再現性の高い表現型解析が可能となるのみならず、経世代遺伝効果(TGE)やその分子キャリアーの解析を高精度に行うことが可能であると考えた。本年度は、先ず始めに既存のY-コンソミック系統群の遺伝的背景をB6/Nに置き換えるための交配を開始し、年度内に世代を3代進めることができた。この中から、最新の世代を使用した糖代謝を含むエネルギー代謝関連表現型の予備的な収集を行った。これ以外にも、Y染色体上のSlyをはじめとした複数の遺伝子について、複数亜種に由来するY染色体供与系統の多型解析を開始した。また、これまでに作製したY-コンソミック系統を使用した表現型解析のデータ拡充、ならびに肝臓と筋肉を標的組織としたトランスクリプトーム解析やメチローム解析に使用するための組織の収集と保管、さらにはオス個体精子(始原生殖細胞:PGC)を材料として行うための試料の収集についても行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで経世代遺伝効果(TGE)を観察してきたC57BL/6J (B6/J) 系統では、エネルギー代謝系の表現型に個体によるバラツキが出ることが報告されている。したがって、TGEのエピゲノム解析を詳細に実施するためには、バラツキが少ないことが知られているB6/N系統の遺伝的背景にY染色体を置換することが重要と考えられた。そこで、エピゲノム解析を本格的に開始する前に、時間が掛かっても遺伝的背景の置換を先に行うことにした。このため、当初の実験計画を一部変更し、既存のY-染色体コンソミック系統をB6/Nへ戻し交配を進めた。さらに、このB6/N系統の遺伝的背景での表現型情報の収集を改めて開始した。一方、免疫関連表現型に関してTGEへの関与が示唆されるSly遺伝子群等の多型解析や、Y-コンソミック系統を対象としたトランスクリプトーム解析については実験に着手することができた。全体としては、計画にやや遅れはみられるものの、28年度の遺伝的背景の置換によって、最終的には着実な進展が図れるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
28年度も引き続きドメスティカス由来Y染色体(Ydom)のB6/N系統への戻し交配を継続する。この新規Y-染色体コンソミック系統を材料としてエネルギー代謝関連表現型のY-染色体多型依存性とTGEを追試する。TGEの再現が確認されたら、エピジェネティック制御の分子基盤解明を目指すとともに、雄の生殖細胞(精子)に存在することが想定されるTGEの分子キャリアーを包括的な方法論で探索する。具体的には、肝臓と筋肉を標的組織としたトランスクリプトーム解析により、新規Y-染色体コンソミック系統の雄親とB6雌の交配由来のF1世代個体で有意に糖代謝異常が緩和されていることを検証する。このF1世代の雌雄個体を用いて、表現型の標的と考えられる肝臓と筋肉組織の次世代シーケンサによるRNA-seq解析を行い、対照のB6系統と比較して表現型に関連して発現変動する遺伝子群を網羅的に探索する。遺伝子オントロジーの情報を参照にしつつ、表現型を規定する原因候補遺伝子を探索する。さらに、同じF1世代の肝臓と筋肉組織を調製し、5メチルシトシン抗体を用いた免疫沈降と大規模シーケンシングを組み合わせたMeDIP-Seq法により、ゲノムワイドにメチル化部位を検出する。B6系統と差違のあるDNA メチル化部位については、バイサルファイト・シーケンシング法でDNAメチル化部位の検証を行う。トランスクリトーム解析のデータと統合して原因遺伝子の同定につなげる。
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