多くの真核生物はオスとメス、二つの性を持つが、その起源と進化については不明の点が多い。もしも、オスとメスが区別がつかない同形配偶子と雌雄の違いが明らかな異形配偶子の両者に共通する二つの性を区別する普遍的な形質が見つかれば、その形質の起源、進化、メカニズムを解析することで、二つの性の起源と進化を解明する手がかりが得られると考えられる。そのような形質の一つとして、多くの緑藻植物の同形、異形配偶子に認められる配偶子における性特異的な細胞融合部位の配置に注目して、そのメカニズムの解析を試みた。そのために緑藻クラミドモナスを用いて細胞融合部位に変異がある突然変異体の単離を試みたが、目的とする変異体の単離には至らなかった。そこで、突然変異体の単離と並行して、この現象の進化的な側面の解析を行った。すなわち、この現象が偶然の産物ではなく、配偶子が受精する環境に適応的な現象であるかどうかの検証を行った。そのために海産緑藻フトジュズモを用いて、配偶子と同じ生育環境に放出され、受精後の動接合子と似たような行動を示す遊走子の鞭毛装置、鞭毛運動、光受容装置としての眼点の比較を行った。その結果、フトジュズモにおいても二つの同形配偶子の間で細胞融合部位の配置が異なっていた。また、動接合子においては、二つの眼点も細胞の同じ面に隣接して並び、二つの配偶子由来の鞭毛装置および鞭毛も平行に並び、そのうちの二本の鞭毛のペアが眼点方向を向いた。この鞭毛装置と眼点の配置は遊走子のものと似ており、同じような生育環境への適応の結果と考えられる。従って、動接合子の鞭毛装置と眼点を並べる仕組みとしての配偶子における細胞融合部位の性特異性も生育環境への適応の結果として進化してきたことが示唆される。
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