研究課題
ボルボックス系列の有性生殖には,同型配偶・異型配偶・卵生殖の3様式が存在する。単細胞同型配偶クラミドモナスのマイナス交配型決定遺伝子として発見されたminus-dominance (MID)遺伝子 (Ferris & Goodenough, 1997)のオーソログは,卵生殖ボルボックスのモデル種Volvox carteriでは雄株にのみ存在し,生殖細胞の精子束への分化に関与する (Ferris et al. 2010, Geng et al. 2014) 。V. carteriは,雌雄が遺伝的に決定するヘテロタリック種である。ボルボックスには、同一株内に両方の性を持つホモタリック種も存在するが,MIDの存在は報告されていない。本研究ではホモタリック種である,V. carteri に近縁なV. africanusと,系統的に大きく離れるV. ferrisii のMIDオーソログを決定し,その発現を解析した。系統解析の結果、MIDの系統は生物種の系統関係と一致した。また、ボルボックスのホモタリック2種はボルボックス科のヘテロタリック種と大差のない同義・非同義置換率を示した。Genimic PCRとサザンブロットにより、ヘテロタリック種V. reticuliferus におけるMIDはシングルコピーで雄株にのみ存在することが確認された。一方、ホモタリック種V. africanus のMID は2コピーあることが示唆された。また群体別の半定量的RT-PCRにより,V. africanus雄群体でのMID発現の上昇,両性群体での減少が明らかになった。これはRNAレベルでMID発現に差の見られなかったV. carteri とは異なる結果であり,ホモタリック種においてヘテロタリック種とは別のMID発現制御が働いていることが示唆された(Yamamoto et al. 投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
ボルボックスの雌雄同体種からはじめてMID配列を得て、進化生物学的解析が実施でき、雌雄同体がMIDの発現制御に関連していることを示すことができたから。
今後、Volvox reticuliferus と Volvox africanus のMID抗体の作製および抗体を用いた細胞内発現解析実施する。また、ゲノム解読データからボルボックスの雌雄同体種と異体種の進化に迫る予定である。
28年度に雌雄同体を形成するVolvox africanus の雌雄異体種V. reticuliderus のOTOKOGI抗体を作製する予定であったが、抗体調整の条件検討に時間がかかり、計画を変更し、抗体を作製し、抗体を用いた細胞内局在解析を行わないことにしたために未使用額が生じた。
Volvox reticuliferus と Volvox africanus のMID抗体の作製および抗体を用いた細胞内発現解析および両種のゲノム情報の整備に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Phycologia
巻: 56 ページ: in press
DOI: 10.2216/17-3.1
PLOS ONE
巻: 11 ページ: e0167148
doi:10.1371/journal.pone.0167148