研究課題/領域番号 |
15K14582
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 同義置換速度 / 分子進化 / 共生 |
研究実績の概要 |
ゲノム上の突然変異率が一様でないことは、動物・植物・細菌では徐々に明らかになりつつある。一方、酵母に代表される菌類では、突然変異率はゲノム上一様であることが示されている。最近、申請者の研究グループでは地衣化菌類サルオガセ属のハコネサルオガセとコフクレサルオガセのtranscriptomeの解析で、この2種に、同義置換率が有意に異なる遺伝子が混在していることを見いだした。この同義置換率の違いが、突然変異率の違いに由来するかどうかを含めその原因を明らかにするため、transcriptome 解析で得た配列のオーソログ間での同義置換率を比較し、差が有意となった遺伝子については、他の地衣化菌・非地衣化菌ゲノム配列との比較から観察結果の普遍性・特殊性を明らかにする。更に、遺伝子のメチル化の程度を明らかにし、同義置換速度・メチル化・CpGsite・遺伝子発現の関連を明らかにすることを目的として研究を実施してきた。 平成27年度は、ハコネサルオガセとコフクレサルオガセのtranscriptomeの解析から相同遺伝子を933遺伝子を同定した。これらの遺伝子のうち遺伝子全体のdivergenceが5~7%である42遺伝子について、ハコネサルオガセとコフクレサルオガセで、同義置換の程度を比較した。その結果、同義座位あたりの置換の数は0.074 から0.268と大きな幅があることが明らかになった。さらに興味深いことに、42遺伝子の比較に基づき座位あたりの同義置換数の分布をとると2峰性を示した。また、これらの遺伝子の座位あたり非同義置換数と負の相関を示す傾向が観察された。今後は、比較する相同遺伝子の数を増やし、座位あたりの同義置換数の2峰性、および非同義置換数との負の相関について確認するとともに、他の地衣化菌・非地衣化菌ゲノム配列との比較を行い、オーソログであることの確認を行い、同義置換率の違いとその原因を精査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハコネサルオガセとコフクレサルオガセの相同遺伝子間の相同遺伝子933遺伝子を同定し,同義置換速度の比較を行ったことは当初予定してたとうりに遂行できた。この過程で、同義置換数の分布が2峰性を示すこと、座位あたりの同義置換数と非同義置換数が負の相関を示す傾向にあることを見出せたのは、大きな成果だと考える。ただし、これらの観察結果は933遺伝子中42遺伝子の解析の結果であり、この結果についてはさらに注意深く精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の3点に焦点を当てて推進する。 1)座位あたりの同義置換数の2峰性、および非同義置換数との負の相関について、比較する相同遺伝子座の数を増やして精査する。 2)他の地衣化菌ゲノム配列との比較によりオーソログの確認を行い、また、この同義置換率の特性が地衣化菌特異的なものかどうかを確認するために、非地衣化菌のゲノム配列からも相同配列を単離し非地衣化菌の近縁2種でも同様の同義置換速度の分布が観察されるかどうかを確かめる。 3)同義置換速度の分布の原因を探るため、Codon Usage、,遺伝子発現量、塩基の並びの効果(Zhu et al. PNAS 2014), RIP(Repet induced point mutation: Rouxel et al. Nature Communication 2011)、などについて精査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ポスドク研究員を1名雇用予定であったが、雇用予定者の都合で雇用ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分としておよそ30万円、次年度分としての請求額140万円(直接経費)と合わせて、170万円分の使用予定は下記の通りである。 シーケンシング解析委託に41万とプライマーおよび実験消耗品の購入に55万円、人件費(RA雇用費)に34万円、学会参加のための旅費(国際地衣類学会、進化学会、遺伝学会)で40万円、計170万円の使用を予定している。
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