研究課題/領域番号 |
15K14584
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
田村 浩一郎 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00254144)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温耐性 / 低温順化 / トランスクリプトーム / 遺伝子発現 / 遺伝子改変 / ショウジョウバエ / 分布域拡大 |
研究実績の概要 |
アカショウジョウバエは元来東南アジアを中心とする熱帯地域に生息していたが、1980年半ばにその生息範囲を北へと拡大させ、現在では西日本でも生息が確認されている。変温動物の寒冷な地域への生息範囲の拡大には低温耐性の獲得が重要な要素であり、アカショウジョウバエもその低温耐性を獲得した可能性がある。これまでの研究により低温耐性は低温順化によって向上することが分かったため、低温耐性の向上には遺伝子発現の変化が関わっていることが予測される。 そこで、低温耐性に関与する遺伝子の探索を主な目的とし、本年度は、まずアカショウジョウバエとキイロショウジョウバエについて、低温順化によって発現量が有意に変化する遺伝子をRNA-Seqを用いて比較した。その結果、アカショウジョウバエ、キイロショウジョウバエそれぞれについて、低温順化によって発現量が有意に変化する遺伝子は184、385見つかったが、2種間で共通して変化する遺伝子は7しかないことが分かった。少数の遺伝子について、これまでの研究結果ら予想された種間の差異が、網羅的解析に置いても確認された。 また、順化による低温耐性の向上の度合いが異なるアカショウジョウバエ9系統について、これまでの研究結果から有力な候補遺伝子と考えられていたpepckとsdrの順化による発現量の変化をRT-qPCRで調べた。その結果、sdrについては、低温順化による発現量の変化と低温耐性の向上の間に相関が見られたが、pepckに関しては相関が見られなかった。しかし、pepck のタンパクコード領域をUASと連結した組換えDNAを作成し、キイロショウジョウバエに導入し、GAL4/UASシステムによってpepckを強制発現してみたところ、pepckの強制発現によって低温耐性は向上することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温順化によるトランスクリプトームの変化がアカショウジョウバエとキイロショウジョウバエで大きく異なるという、これまでの研究結果から得られた仮説が検証でき、研究の方向性を変えることなく進めることができることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、低温順化によって低温耐性が向上するメカニズム関わる有力な候補遺伝子と考えられてきたpepckとsdrについて、低温順化に対する発現量の変化を系統間で比較したところ、低温順化に対するレスポンスに応じた相関が見られる可能性が示された。今後は、低温順化によって発現量が変化する遺伝子を、RNA-Seqを用いたトランスクリプトーム解析によって網羅的に探索し、関連する遺伝子を全て同定する。また、pepckやsdrのような有力な候補遺伝子に関しては、キイロショウジョウバエを用いた組換え体を作成し、UAS/ GAL4またはUAS-RNAi/GAL4システムによって強制発現またはノックダウンした上でトランスクリプトーム解析を行い、それらの遺伝子の発現量が変化することによって発現量が変化する遺伝子を網羅的に調べる。これらの方法により低温順化によって低温耐性が向上するメカニズムを明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定していたアカショウジョウバエのRNA-Seq実験が間に合わなくなり、そのための試薬キット購入を次年度に持ち越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分の予算と合わせ、RNA-Seqに用いる試薬キットの購入に充てる。
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