アカショウジョウバエは元来東南アジアを中心とする熱帯地域に生息していたが、1980年半ばにその生息範囲を北へと拡大させ、現在では西日本でも生息が確認されている。変温動物の寒冷な地域への生息範囲の拡大には低温耐性の獲得が重要な要素であり、アカショウジョウバエもその低温耐性を獲得した可能性がある。これまでの研究により低温耐性は低温順化によって向上することが分かったため、低温耐性の向上には遺伝子発現の変化が関わっていることが予測される。 昨年度は、アカショウジョウバエとキイロショウジョウバエの2種間で、低温順化によって発現量が有意に変化する遺伝子を比較した結果、2種間で共通して変化する遺伝子は7遺伝子しかないことが分かった。そこで、今年度は、低温耐性と呼吸量に対する低温順化の効果が異なるアカショウジョウバエの3系統間で、RNA-seq法を用いて低温順化によって発現量が有意に変化する遺伝子を、生物学的反復を繰り返し、また、新たにゲノム配列を元にしたリファレンス配列を構築しデータベースとして用いることにより詳細に調べた。その結果、3系統全てで有意に発現が低下した遺伝子は1遺伝子(キイロショウジョウバエのCG18609のホモログ)のみだった。CG18609は脂肪酸からワックスなどを合成させる経路に関わる遺伝子であり、細胞膜の性質に影響を与えることにより低温耐性向上に関与している可能性があるが、昨年度、アカショウジョウバエとキイロショウジョウバエの種間比較から得られた候補遺伝子とは異なるものであった。
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