研究課題
多くの昆虫はその体内に細胞内共生細菌を保持しており、母子間伝播によって次世代へと受け継がれることが知られている。このような昆虫の細胞内共生系について、これまで進化学的研究やゲノム科学的研究が行われてきたが、細胞内共生の進化的起源についてはほとんど分かっていないのが現状である。最近我々は、共生細菌を毎世代環境土壌中から獲得するコバネヒョウタンナガカメムシが、その共生細菌を消化管の上皮細胞内に保持していることを発見した。本年度はまず、コバネヒョウタンナガカメムシ消化管よりBurkholderia共生細菌を単離してGFP組換え体を作成し、その感染過程を観察した。GFP組換え共生細菌を給水用の水に混ぜて与えたところ、一部の幼虫でしか感染が見られなかった。この低い感染率についてさらに調査を行ったところ、コバネヒョウタンナガカメムシは卵表面に共生細菌を塗布して伝達し、これによって孵化個体が母虫由来の(GFPを持たない)共生細菌を高頻度で獲得してしまっていることが明らかとなった。この観察は予想外の結果ではあったが、コバネヒョウタンナガカメムシがBurkholderia共生細菌を母子間伝達させていることを示す新たな発見と言える。この点についてさらに解析したところ、カメムシの糞にも多くのBurkholderia共生細菌が含まれており、この糞によっても共生細菌の母子間伝播が起きることが強く示唆された。以上の結果を踏まえ、本年度はコバネヒョウタンナガカメムシとBurkholderiaの共生系の基礎的知見についてより詳細に解析する必要があると考え、①野外における感染率、②野外における共生細菌の多様性、③野外における細胞内共生率、④土壌からの共生細菌の獲得率、について詳細なデータを得た。これらの知見は来年度以降研究を進める上での重要な基盤データといえる。
2: おおむね順調に進展している
コバネヒョウタンナガカメムシとBurkholderiaの細胞内共生系について、多くの基礎的知見を得ることができ、来年度に繋がる研究進展をすることができた。本年度は、コバネヒョウタンナガカメムシがBurkholderia共生細菌を母子間伝播することなど、予想外の新規発見があった。また、学会発表や論文発表を積極的に行い、成果の発信に努めた。
来年度は、コバネヒョウタンナガカメムシのBurkholderia共生細菌についてGFP(緑色蛍光タンパク質)発現組換え体を作成し、これをカメムシ幼虫に接種することで、その感染過程のリアルタイム観察を行う。共生細菌の蛍光観察に際しては、宿主膜の染色(FM4-64)、宿主核の染色(DAPIなど)、宿主細胞骨格の染色(Phalloidine)を同時に行い、「共生細菌の感染過程でいつどのように宿主細胞内への侵入が始まるのか?」、「共生細菌の侵入過程において宿主細胞膜や細胞骨格にどのような変化が起きるのか?」「宿主細胞内における定着過程において共生細菌はどのような細胞内動態を示すのか?」について観察を行う。また、Burkholderia共生細菌のゲノム情報に基づいて、共生関連遺伝子候補のノックアウトを行い、各候補遺伝子が細胞内共生で果たす役割について調査する。サルモネラや腸管病原性大腸菌などいくつかのヒト病原細菌においては細胞侵入の遺伝的基盤が明らかとなっており、そのような遺伝子群が昆虫の細胞内共生系において必須の機能を果たしている可能性は十分考えられる。病原細菌が宿主細胞表面に接着するために使用することが知られている線毛に加え、病原菌の細胞内侵入機構として報告されている3型分泌装置(Type III Secretion System)や6型分泌装置(Type VI Secretion System)などについて、H27年度までに得られたコバネヒョウタンナガカメムシ共生細菌のゲノム配列を探索する。これら遺伝子配列について相同遺伝子が発見された場合には、その欠損株の作出を試みる。遺伝子欠損株の作出は、近縁のBurkholderiaをはじめとして多くの細菌に適用されているプラスミドpK18mobsacBを用いた相同組換え法を試みる。作出された遺伝子欠損株は順次コバネヒョウタンナガカメムシに経口投与し、盲嚢における細胞内局在をFM4-64染色によって確認する。同時に細胞内共生に関わる新規遺伝子の探索も進める。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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