多くの昆虫はその体内に細胞内共生細菌を保持しており、母子間伝播によって次世代へと受け継がれることが知られている。このような昆虫の細胞内共生系について、これまで進化学的研究やゲノム科学的研究が行われてきたが、細胞内共生の進化的起源についてはほとんど分かっていないのが現状である。最近我々は、共生細菌を毎世代環境土壌中から獲得するコバネヒョウタンナガカメムシが、その共生細菌を消化管の上皮細胞内に保持していることを発見した。昆虫においてこのような「恒常的細胞内共生の初期段階」ともいえる共生系はこれまで知られておらず、コバネヒョウタンナガカメムシにおける共生メカニズムの解明は、昆虫における細胞内共生の進化に迫る大きな成果に繋がると期待できる。 本年度はコバネヒョウタンナガカメムシにおけるBurkholderia共生細菌の生物学的役割を解析し、これら細菌が宿主カメムシの成長に必須の役割を果たすことを明らかにした。また、解析範囲をヒョウタンナガカメムシ科全体に拡大し、多くの種がコバネヒョウタンナガカメムシと同様に環境獲得型の細胞内共生をしていることを明らかにした。一方ヒョウタンナガカメムシ科以外の近縁分類群ではこのような細胞内共生が観察されなかったことから、この環境獲得型細胞内共生はヒョウタンナガカメムシ科の共通祖先で独自に進化したものと考えられる。また本年度は、細胞外(腸内)にBurkholderia共生細菌を持つホソヘリカメムシと、細胞内にBurkholderia共生細菌を持つコバネヒョウタンナガカメムシの間で共生細菌の交換実験を行い、細胞内に共生するという性質が宿主カメムシによって決められていることを明らかにした。細胞内共生成立に関わる遺伝的基盤はほとんど分かっていないが、本発見はそのランドマークともなる重要な知見といえる。
|