研究課題/領域番号 |
15K14590
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
片山 葉子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90165415)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 真菌類 / 単体硫黄 / 化学合成無機栄養 / Fusarium solani |
研究実績の概要 |
真菌類において、硫黄をエネルギー源とする無機環境での生育を明らかにすることを目的に、分与を受けた7株の真菌類の中から、内生細菌が確認されず、しかも最も高い硫黄酸化活性を示したFusarium solani p.sf. pisi NBRC9425を供試菌として研究を行った。本菌を硫黄をエネルギー源とする条件下で培養し、糸状細胞の増殖を中心とする生理学的特性の解明、硫黄酸化反応に関連する酵素系の探索に用いる菌体を調製するための培養条件などを検討した結果貴重な情報が得られた。本菌は硫黄を唯一のエネルギー源とする無機栄養培地(WS-5培地)において、培養開始30日目では0.1 mMの硫酸イオンが、また菌体量の指標としたエルゴステロール量は14 mg/Lにまで増加することを確認した。DAPI染色後の培養液を蛍光顕微鏡で観察すると、単体硫黄の粒子表面は菌糸によって覆われており、従属栄養条件に比較するとその生育は格段に低いが、無機栄養性細菌での生育にほぼ匹敵する増殖が得られることが確認された。 チオ硫酸塩を単体硫黄と共に添加することで生育は約3倍に、硫酸イオンの生成量は約2.3倍に増加し、チオ硫酸塩には生育促進効果のあることが明らかとなった。菌体量の増加を目的に有機物を添加した結果、酵母エキスは40 mg/Lの濃度であれば菌体量の増加とチオ硫酸イオンおよび硫酸イオンの増加が見られ、グルコース、マルトース、ポテトエキスではチオ硫酸イオンの生成は大きく低下した。Trichoderma属の真菌には単体硫黄を代謝することが知られており、無機硫黄化合物である硫化カルボニルも分解することから、硫化カルボニル代謝と単体硫黄代謝の関連が期待される。そこで、並行して分解機構を調べるために保存菌株の中から高い分解活性を示すTHIF20株を選抜した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
使用菌株の硫黄培地での生育については順調に成果を得ることができている。しかし、培養に用いてきた単体硫黄を新たに同一の試薬会社から購入したところ、バッチの違いが真菌の生育に微妙に影響を及ぼす可能性が明らかとなり、現在複数の試薬メーカに問い合わせ中である。必要な種類の試薬が整い次第、菌株に対する単体硫黄の試薬ごとの影響について確認の調査を行った上で、今後安定的に入手可能な硫黄を確定し培養計画を立てる。万一これまでと同等レベルの単体硫黄が入手不可となった場合は、他の菌株の使用も視野に入れた実験ができるように準備をすることにする。 硫黄酸化に関わる酵素の同定に関しては、本菌の細胞破砕液からイオン交換や疎水性カラムなどを用いた分画を試みたが、これまでのところ充分な活性画分を得ることに繋がっていない。そこで硫黄の有無によって調製した培養菌体について、出現するタンパク質の違いをもとに硫黄酸化反応に関与する酵素タンパク質を得ることを目指して、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ないその泳動パターンを比較している。2次元電気泳動についてはこれまで2回試みたが、共存する物質の影響で高品質の画像が得られていない。当研究室ではこれまで細菌を中心とした研究がほとんであったために、真菌細胞を用いた生化学的研究の経験が少ない。今後情報を広く収集し電気泳動にかける試料調製法にさらに工夫を加えることで、スポット解析の可能なまでの結果が得られるようにしたいと考えている。ターゲットとなるタンパク質の確定後は、常法に則りクローニング、組み換えタンパク質の大量発現、その後の生化学的解析などの作業を進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
Fusarium solani p.sf. pisi NBRC9425による硫黄の初発酸化反応については、ATP生成が実際に進行しているのかどうかを発光法によって明らかにする計画である。関連する酵素タンパク質の同定については、現在までのところ、真菌細胞からの夾雑物の除去が不十分なためPDQusetに耐える品質の2次元電気泳動の結果がまだ得られていない。今後もその作業を継続して前処理の工夫を引き続き行い、関与が予想されるタンパク質の決定にまで結びつけたいと考えている。その後、切り出したタンパク質については質量分析計による構造解析などの解析を進め、クローニングまで行うことが出来たものについては大量発現酵素を用いた酵素学的性状についても調査する。組換えタンパク質の大量発現には申請書の段階ではEscherichia coli を予定していたが、DNAの起源が真核生物であることを考慮してSaccharomyces cerevisiaeに変更する可能性もある。 Trichoderma属の真菌にはFusarium solaniと同様に硫黄を利用するものがあることが知られ、更に硫化カルボニルも分解することから、両硫黄化合物の代謝におけるネットワークの存在の可能性が出てきた。そこで、両者の分解機構を並行して調査するために、当研究室で保存している分離菌株の中から高い分解活性を示すTHIF20株を選び、硫黄代謝についても調べることとする。これらを総合しつつ、真菌類における硫黄酸化、特に単体硫黄の酸化とその周辺反応について解析を進める計画である。
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