研究課題/領域番号 |
15K14594
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
濱村 奈津子 九州大学, 理学研究院, 准教授 (50554466)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンチモン還元 / 微生物金属代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、毒性元素を利用した微生物エネルギー代謝の多様性進化を解き明かすことを目的に、ヒ素と同族の毒性元素であるアンチモンに着目し、平成27年度は高濃度のアンチモンで汚染した環境試料からアンチモン代謝微生物群の集積培養を試みた。環境試料としてアンチモン鉱山跡地土壌を接種源とし、特に生理生態的に多様なアンチモン代謝菌群を探るため、酸素条件や炭素源、エネルギー源の異なる培養条件下で集積培養を実施し、アンチモンの酸化還元反応を化学分析によりモニタリングした。 その結果、嫌気的に5価アンチモン(SbV)を3価へと還元するアンチモン還元能を示す集積培養系の取得に成功した。限界希釈法により集積培養系から菌の単離を試みたが、単離する過程で活性が消失したことから、アンチモンの還元代謝には複数の細菌群の存在が必須である可能性が示唆された。そこで、コンソーシア中に存在する細菌群について、16S rRNA 遺伝子配列を解読し、分子系統学的に同定した。これまでに分離が報告されているアンチモン還元菌は2株のみであるが、本研究でアンチモン還元活性を示したコンソーシアからは、ヒ素やその他金属の還元菌と系統的類似度の高い多数のFirmicutes属の16S rRNA遺伝子配列とともに、アンチモン酸化および還元菌として報告のあるα-Proteobacteriaに近縁な配列が検出されたことから、これらの菌がアンチモン還元に関与している可能性が高い。本結果より、これまでに報告事例の少ないアンチモン代謝細菌が汚染環境中に広く分布しており、ヒ素と同様にアンチモンを利用したエネルギー代謝も生理生態的に多様な細菌群に共有されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には計画通り順調にアンチモン代謝活性を有す集積培養系が得られている。当初に予定していた分離株の取得に関しては、限界希釈法による分離過程において活性の消失が見られ、アンチモン代謝には複数の細菌群が関与している可能性が示唆されたため、安定的活性を示すコンソーシア内の群集解析を実施することで対応した。複数のコンソーシア内で共通に存在する細菌群の系統学的な同定結果から、当初予定していたアンチモンを利用する微生物群の多様性分布に関する知見が得られた点で高く評価でき、概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに多様な条件下でアンチモン代謝活性を示す集積培養系の希釈培養を継続し、安定なコンソーシアを取得する。また、数種の優占種に集積されたコンソーシアから、直接プレート培養法等による優占種株の分離を試み、これら優占種株のアンチモン代謝活性を確認する。平成28年度以降に予定している、ゲノムおよび遺伝子発現解析によるアンチモン代謝機構の特定に関して、アンチモン代謝活性を示す分離株の取得が困難な場合には、数種の優占株を含むコンソーシアのゲノム情報を基に同様の解析を行うことで対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、アンチモン代謝菌株の生育及び代謝活性簡易モニタリングをハイスループット化するため、96ウェルプレートで測定が可能なプレートリーダの購入を備品として申請していたが、集積培養時には沈殿物が生成されたため、濁度測定による生育モニタリングが困難であると判断し初年度の備品購入を見合わせたことにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に、予定していたプレートリーダーによる生育および代謝活性簡易モニタリング法を用いてコンソーシアから優占種の分離培養を継続するため、当初の予定通りの使用計画である。
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