研究課題/領域番号 |
15K14595
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研究機関 | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ |
研究代表者 |
馬場 知哉 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ, 新領域融合研究センター, 特任准教授 (00338196)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 南極 / 微生物 / ゲノム / 遺伝子 / 水平伝播 / 系統解析 / 分類 / 表現型 |
研究実績の概要 |
本研究は大陸移動により他の大陸から隔離され、地球上でも特殊な環境(極低温、貧栄養、白夜/極夜の特殊な日照条件など)に変容した南極大陸上の湖沼生物圏を構成する細菌のゲノム構造において示唆されている多種多様な遺伝子の水平伝播と、これまでの16S rRNAなど一部の遺伝子配列情報に基づく系統解析との関連性を整理し、ゲノム情報を網羅的な遺伝型として、その表現型に関する実験情報と細胞内の代謝経路予測を関連付けることにより、南極の特殊環境における細菌の進化と分類に関する新たな指標探索を目的としている。そのために、最適な比較解析対象となる細菌株の選定を行った。これまでに我々がゲノム解析を行った南極大陸上の日本の昭和基地に近い湖沼底で発見された「コケ坊主」生物圏を構成する細菌株の中からPseudomonas属細菌HMP1株に着目をした。Pseudomonas属細菌は世界中に広く分布し、ヒト病原菌、植物病原菌、窒素固定菌、植物の生育促進菌、難分解性物質の分解菌など機能的にも環境的にも多様な適応進化と種分化が研究され、ゲノム情報の蓄積が最も多い細菌の一つである。我々はPseudomonas属細菌HMP1株が分離された湖沼とは南極大陸上で反対側に位置する湖沼から分離されたPseudomonas属細菌P. antarctica CMS35株にも着目し、そのゲノム解析を行った。Pseudomonas属細菌HMP1株とP. antarctica CMS35株は16S rRNAの配列比較では1塩基の置換のみであり、その系統解析からは同種とみなされたが、比較ゲノム解析の結果、それぞれのゲノム上の約1割の遺伝子はこれら2株には保存されておらず、株ごとに水平伝播により獲得されたことが示唆された。この割合は他の大陸で分離されたPseudomonas属細菌株のゲノム解析結果と比較すると顕著に高いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、フェノタイプ(表現型)マイクロアレイと呼ばれる米国のBIOLOG社で開発された、最大で1920通りの培養条件(培養液組成)での細胞応答を調べる実験システムを用いて、南極細菌とその近縁のゲノム解析株あるいは標準株の比較解析実験までを行う予定であったが、今年度は比較解析に最適な細菌株の選定と、そのゲノム解析、培養条件(培養液組成、温度)の検討を主眼に置いて行った。これは比較解析株の選定が、今後の本研究の成否を大きく左右する懸念が生じたためである。すなわち、理想的には比較解析株は同種あるいは非常に近縁な系統関係にあるものから比較対象として十分に遠縁のものまでの比較ができることが望ましい。この場合、有限な研究費と研究期間を考慮すると、ある程度の研究の蓄積がある細菌種で南極からも分離の実績があるもの、比較のためのゲノム情報が登録・整備されているものが候補として挙げられる。NBRP (National Bio Resource Project)に代表される菌株寄託機関に整備されている細菌株の活用、DDBJ (DNA Data Bank of Japan) に代表されるDNAの塩基配列の配列データベースに登録されているゲノム情報を利用することで最大限の効率化を図った。その結果、我々が南極大陸湖沼から分離し、ゲノム解析を行ったPseudomonas属細菌HMP1株、菌株寄託機関から活用可能であった南極Pseudomonas属細菌P. antarctica CMS35株を中心に、これらに近縁な他の大陸から分離されたPseudomonas属細菌株とそのゲノム情報を利用するという方針に至った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降に研究を加速させていくために、今年度に選定し、ゲノム解析を行った南極Pseudomonas属細菌HMP1株、P. antarctica CMS35株、これら両株に最も近縁な他の大陸から分離されたPseudomonas属細菌としてP. fluorescens SBW25株、さらに遠縁ながらも南極株と同様に極域環境に適応進化した北極Pseudomonas属細菌ArSA株を中心に、今年度に得られた培養条件(培養液組成、温度)の検討結果を踏まえて、フェノタイプ(表現型)マイクロアレイ解析実験を実施していく方針である。なお、米国のBIOLOG社で開発されたフェノタイプ(表現型)マイクロアレイ解析は最大で1920通りの培養条件(培養液組成)での細胞応答が調べられる実験システムであるが、その半分は主に病原性細菌の細胞応答の解析を目的とされた抗生物質耐性関連の培養条件であるため、本研究課題における細胞内の中心的な代謝経路の予測に必須のものとは言えない。研究費と研究期間の効率的な運用の観点から、それら抗生物質耐性関連の培養条件を省いてフェノタイプ(表現型)マイクロアレイ解析実験を実施していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題における有限な研究費を最大限に有効に活用するために、他の研究費の活用が可能な部分は代替を積極的に進め、本研究課題の研究費を充当することが妥当な経費のみに限定して予算を使用した。さらに、菌株寄託機関からの研究用の菌株の提供や、DNAの塩基配列の配列データベースに登録されているゲノム情報など、公的な研究資源(リソース)と研究情報(データ)の活用を優先して研究戦略を策定した。その結果、当初の計画における一部の実験を次年度に移行させることとなり、そのため次年度に使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究計画において今年度に予定していたフェノタイプ(表現型)マイクロアレイ解析実験を次年度に実施する計画である。比較対象となる細菌株を当初計画の2ないし3株から今年度に選定した4株に増やしたが、フェノタイプ(表現型)マイクロアレイ解析実験の培養条件を当初計画の1920通りから半減させることにより、研究費と研究期間の効率化のバランスを考慮していく計画である。これらの実験に要する試薬・消耗品の経費(物品費)、研究協力者との打ち合わせおよび学会等での情報収集のための経費(旅費)、細胞内の代謝物(メタボローム)解析の予備検討等の経費(その他)を予定している。
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