• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2015 年度 実施状況報告書

緑藻の生活史に多様性が進化する機構の解明に迫る

研究課題

研究課題/領域番号 15K14598
研究機関千葉大学

研究代表者

富樫 辰也  千葉大学, 海洋バイオシステム研究センター, 教授 (70345007)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード生活史 / 繁殖戦略
研究実績の概要

本研究では、多くの藻類に見られる多様性な生活史経路が進化するメカニズムについて、「これらの発生経路の違いは、配偶子のサイズ(配偶子が有する初期資源量)によって決められるのではないか」という仮説を立て、実験によってこの仮説を検証している。研究材料には、配偶子が減数分裂を経ずに母細胞の同調的な等割によって形成されるうえ、母細胞のサイズとこれらの細胞分裂回数にばらつきがあるため、遺伝的に等しい様々なサイズの配偶子を得ることが出来るうえ、配偶子に複数の異なる単為発生経路が存在している可能性があるアオサ藻綱の海産緑色藻類のエゾヒトエグサ(Monostroma angicava)を用いた。本研究では、エゾヒトエグサが持つこれらのユニークな特性を利用して、配偶子が持っているこれまで考えられてこなかった機能を解明する道筋を付け、多様な生活史の進化機構の理解につながる研究の起点とすることを目指している。

多くの生物で配偶子は異なる性のパートナーと接合できなければ、すべて死滅する。これに対して、本研究では、エゾヒトエグサの各配偶体が生産する配偶子には、雌雄いずれも3通りの運命があることを確認した:(1)接合して胞子体になり、減数分裂を行って遊走子を形成し、その遊走子が次世代の配偶体となる; (2)接合せずに単為発生して胞子体になり、遊走子を形成して次世代の配偶体となる; (3)接合せずに配偶子が単為発生して直接配偶体になる。また、本種の配偶子は、雌雄の細胞が同調的に分裂することによって形成されるが、この際の細胞分裂がいずれも等割であることを証明し、論文で発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画通り、研究代表者(富樫)らがこれまでの研究によって明らかにしてきた海産緑藻エゾヒトエグサの配偶体が繁殖期に潮汐のリズムに合わせて有性生殖を行っていることを利用して研究材料となる配偶子が形成され成熟したエゾヒトエグサの配偶体を研究協力者である千葉大学大学院生の支援を受けながら北海道大学北方生物圏フィールド科学センター室蘭臨海実験所(北海道室蘭市)を拠点にして周辺海域で採集した。採集した配偶体の成熟部分を細断し、配偶子嚢を各個に遊離させた。内部に形成された配偶子の核は蛍光染色することによって計数した。培養のための配偶子嚢は、形成された配偶子の数を確認し、サイズ計測のための顕微鏡写真を撮影したのちPES培地を満たした培養シャーレ中に単離した。これらの配偶子嚢に光を当てて配偶子を放出させ、人工気象器を用いて培養実験を開始することが出来た。実験では、これまでに、それぞれの配偶子の発生過程を時間の経過に沿って追跡することによって、配偶子自体が実際にそれぞれ胞子体、もしくは配偶体に発生することを突き止めることに成功した。これらの培養実験に用いた配偶子嚢のサイズとそれぞれの配偶子嚢内部で起きた配偶子形成過程における同調的等割の回数に基づいて、それぞれの配偶子に配分された初期資源量の見積もりも完了することが出来た。これまでに、本研究で目指すエゾヒトエグサの配偶子が示す異なる発生経路の発現が、配偶子が有する初期資源量の違いとどのような関係を持っているかを明らかにするための基盤を構築することが出来た。

今後の研究の推進方策

今後は、研究計画に従って、本研究で提案した「緑藻の生活史において、配偶子からの発生経路に見られる多様性は、配偶子が有する初期資源量(配偶子のサイズ)が異なることに起因するのではないか」という独自の仮説の検証を目指していく。このため、これまでに構築した実験系を使って、初期資源の異なる様々なサイズの配偶子の発生経路を調べることによって、配偶子のサイズの違いが生活史の多様性を生み出しているのかもしくは、それがstochasticなepigenetic effectsによって制御されているのかどうかを議論することのできる定量的なデータを収集する。これまで緑藻に見られる多様な生活史の多様性の進化機構はよくわかっていなかった。その大きな理由は、ひとつには、この問題に挑戦するための仮説がほとんど提案されてこなかったことにあり、さらにもうひとつにはたとえ提案されたとしてもそれを実験によって検証する方法が無かったことによる。本研究では、海産緑藻・エゾヒトエグサが有する極めてユニークな特性を利用することによってこの問題の解明に挑む。これによって、従来配偶子のサイズ進化に関する理論的な研究で考えられてきた配偶子の役割に関する伝統的な概念を超えて行く。これらの理論では、これまで配偶子の役割は、接合するためのパートナーの探索と接合子の初期発生に必要な資源を供給することだと考えられてきた。これに対して、本研究では、配偶子は複数の単為発生経路を有することによって生活史に多様性を作り出しているという新しい原理を発展させていく。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [国際共同研究] University of Liverpool(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      University of Liverpool
  • [雑誌論文] Evidence for equal size cell divisions during gametogenesis in a marine green alga, Monostroma angicava2015

    • 著者名/発表者名
      Togashi, T., Y. Horinouchi, H. Sasaki and J. Yoshimura
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 5 ページ: -

    • DOI

      10.1038/srep13672

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 海産緑藻エゾヒトエグサにおいて新たに発見した生活史経路2016

    • 著者名/発表者名
      堀之内祐介、杉井優太郎、若菜雄、茂呂竜太郎、富樫辰也
    • 学会等名
      第63回日本生態学会大会
    • 発表場所
      仙台国際センター(仙台市)
    • 年月日
      2016-03-20 – 2016-03-24
  • [学会発表] 海産緑藻配偶システムの進化に見る偶然と必然2016

    • 著者名/発表者名
      富樫辰也
    • 学会等名
      第63回日本生態学会大会
    • 発表場所
      仙台国際センター(仙台市)
    • 年月日
      2016-03-20 – 2016-03-24

URL: 

公開日: 2017-01-06   更新日: 2022-02-03  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi