藻類では、配偶子が単為発生することによって、多様な生活史経路が見られることがある。本研究では、これらの多様性な生活史経路が進化するメカニズムについて、「これらの発生経路の違いは、配偶子のサイズ(配偶子が有する初期資源量)によって決められるのではないか」という仮説を立て、実験によってこの仮説を検証している。研究材料には、アオサ藻綱の海産緑色藻類のエゾヒトエグサ(Monostroma angicava)を用いている。本種では、配偶子が減数分裂を経ずに母細胞の同調的な等割によって形成されるうえ、母細胞のサイズにばらつきがあるため、遺伝的に等しい様々なサイズの配偶子を得ることが出来る。研究では、エゾヒトエグサが持つこれらの特異な性質を活用して、多様な生活史経路が進化する機構の理解を目指している。
多くの生物で精子や卵などの配偶子は異なる性のパートナーと接合できなければ、すべて死滅する。これに対して、本研究では、エゾヒトエグサの各配偶体が生産する配偶子には、雌雄いずれも3通りの運命があることが確認された:(1)接合して胞子体になり、減数分裂を行って遊走子を形成し、その遊走子が次世代の配偶体となる; (2)接合せずに単為発生して胞子体になり、遊走子を形成して次世代の配偶体となる; (3)接合せずに配偶子が単為発生して直接配偶体になる。さらに、単為発生出来るかどうかはその配偶子が有する資源量に依存しているが、胞子体になるか配偶体になるかは配偶子が有するサイズによらずランダムに決まっていることが分かった。
|