リンゴS遺伝子座内の組換え頻度を明らかにすることを目的に、減数分裂細胞へのBAC-FISH解析と花粉のジェノタイピングを行ってきた。本年度は、交雑により得られた実生のジェノタイピングを行って、S遺伝子座内で組換えが生じた配偶子が受精し、組換えSが後代に伝達されるかを解析した。はじめに、リンゴ品種フロリーナ(S3S9)で開発したアリル特異的プライマーが、王林(S2S7)のDNAを鋳型としたPCRにおいて増副産物を生成しないことを確認した。次に、王林の雌蕊にフロリーナの花粉を受粉し、慣行栽培で種子を得た。種子を低温保存した後に播種し、実生を養成した。その後、S遺伝子座の両端にあるF-box遺伝子をS3またはS9のアリル特異的プライマーで増幅し、S3またはS9プライマーのみで増幅される非組換え花粉と、S3とS9プライマーの両方で増幅が見られる組換え花粉の有無を調査した。その結果、S遺伝子座内で組換えが生じた花粉が受精した実生は存在しなかった。減数分裂細胞や花粉で見られた組換えS遺伝子型が実生で検出されなかった理由として、受精競争において組換え花粉に負の選択圧が働いている可能性が考えられる。今後、実生サンプル数を増やして詳細に解析する予定である。
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