研究課題
生物は太陽光エネルギーをどのような機構で化学エネルギーに変換しているのか?次世代シーケンサーの登場により機能未知光受容体配列(ロドプシン)が爆発的なスピードで蓄積する近年において、その利用機構はこれまで考えられていた以上に多様であることが分かってきた。本研究では、シアノバクテリアの持つ機能未知ロドプシンの機能と生理的役割を、最新の情報科学および全遺伝子合成技術を駆使し多角的に解き明かすことで、これまで考えられてこなかった2つの光エネルギー利用機構がどのように「機能」および「光の色」の使い分けを行っているのかを明らかにする挑戦的な試みである。平成28年度は、淡水性シアノバクテリアであるSynechocystis属の細菌が持つ未知ロドプシンの機能解析を実施し、光で塩化物イオンを細胞外から細胞内に輸送するロドプシンであることを明らかにした。またイオン輸送特性を調べた結果、塩化物イオンの他に硫酸イオンも輸送することが分かった。これまで二価の陰イオンを運ぶイオン輸送型ロドプシンは見つかっておらず、本研究で初めてその存在が示された。さらに、本研究で発見したロドプシンと同じ機能を持つと予想されるロドプシンが淡水性シアノバクテリアゲノム上に幅広く分布することが徐々に分かってきた。しかしながら、淡水に生息するこれらのシアノバクテリアが実際に生息する環境で光エネルギーを利用してどのイオンを輸送しているかは不明である。今後の研究では、遺伝子欠損シアノバクテリア株などを用いることでシアノバクテリアの光エネルギーの使い分けを明らかにしたい。
2: おおむね順調に進展している
淡水性シアノバクテリアから新規の一価及び二価陰イオン輸送ロドプシンを発見し、論文として報告した。淡水環境は、海洋より遥かに溶存イオンが少ないことが知られている、そのため陰イオン輸送ロドプシンは存在しないと考えられていたが本研究でその存在が明らかとなった。
最終年度は、これまでの研究で見つけたシアノバクテリアロドプシンの生理的役割を明らかにするため、ロドプシン遺伝子欠損シアノバクテリア株やロドプシン遺伝子導入シアノバクテリア株の作成を試みる。これらの株を作成することで、シアノバクテリアロドプシンの細胞内での生理的役割を解明し、その生態学的な意義を考察したい。
本年度から実施予定であった遺伝子欠損株や遺伝子導入株の作成は、特殊な技術を要するため、実験作業を行う研究員の雇用が当初予定よりも大幅に遅れたため。
繰越費用は、次年度の人件費に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 139 ページ: 4376-4389
10.1021/jacs.6b12139