研究課題/領域番号 |
15K14605
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 一希 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90533480)
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研究分担者 |
松井 宏樹 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30346001)
徳田 岳 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (90322750)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テングザル / 前胃 / 微生物 / 反芻 / 霊長類 |
研究実績の概要 |
本研究では、炭水化物過多果実に対する耐性が異なることが予測される、川辺林とマングローブ林に棲息する2つのテングザル個体群の前胃内微生物叢を比較し、餌の多様性と前胃内微生物叢との関係を明らかにすることが第一の目的である。申請者が11年にわたり維持・管理しているキナバタンガン下流域(マレーシア・サバ州)のスカウ村(川辺林)とアバイ村(マングローブ林)の近隣に棲息する野生テングザルから、既に収集を終えていた胃内容物の輸出許可証(CITES)を取得し、日本国内に輸入した。次世代シーケンサーを用い、テングザルの前胃内微生物を16Sアンプリコン解析によって調べた。その結果、予測していた通り、川辺林に棲息し、より多様な食物を摂取しているテングザルでは、マングローブ林に棲息するものと比して、より多様な前胃内微生物叢を有すること確認された。加えて、16Sアンプリコン解析によって菌叢を調べたサンプルについて、メタゲノムショットガン解析も実施した。これは、細菌の16S配列のみならず、胃内容物に含まれるすべてのDNA配列を決定するものであり、細菌が有する酵素の遺伝子配列などを直接、明らかにすることができる。メタゲノム配列には、テングザル個体自身由来のゲノムも含まれるので、マッピングと呼ばれる方法でテングザル由来と思われる塩基配列をそぎ落としたところ、約55%が非テングザル由来の配列であった。現在、スーパーコンピューターを用いて、これらの非テングザル由来の塩基配列が、どんな生物相(原生生物、細菌)から由来するか、またどんな遺伝子に由来するかを分析中である。遺伝子解析と平行して、テングザルの前胃内容物について、各種セルラーゼ活性の測定も行った。その結果、セルロース消化の主役が原生生物などではなくてバクテリアであり、それらのバクテリアが前胃内の固形物に付着してセルロース消化を行っていることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、テングザルの前胃内容物の国内への持ち込みを完了させ、遺伝子解析を進め、すでに予備的な結果が得られてる。加えて、前胃内容物を用いて、酵素活性実験にも着手することができた。また、第二の研究目的である、テングザルのシロアリ食がテングザルの前胃内微生物叢形成に及ぼす影響の検討についても、現地でのシロアリ採取については済ませている。以上の理由より、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
16Sアンプリコン解析によって進めている、前胃内微生物叢のデータの取りまとめを行う。同時に、メタゲノムショットガン解析で得られているデータについても、スーパーコンピューターを用いた解析を進めていく。また、すでに収集が済んでいるシロアリのサンプルを、国内に持ち込むための許可証を取得し、そのサンプルの遺伝子解析、酵素活性実験を実施していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
サンプルを国内輸送することに少し手間取り、代表者が行う予定であった実験がほとんど実施できず、本年度実施した実験の多くは、研究分担者が分担金の範囲内で行ったものであった。よって、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に予定していた実験と、今年度実施予定の実験をまとめて行うことにより、次年度使用額として生じたものを使用していく予定である。
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