研究課題/領域番号 |
15K14612
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
中山 一大 自治医科大学, 医学部, 講師 (90433581)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モンゴル人 / DNAメチル化 / エピジェネティクス / 栄養 / 遊牧 / 農耕 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病のような生活習慣病の感受性の形成には、母胎内や幼年期、さらには直近の祖先の栄養状態が寄与していると予想されている。DNAメチル化は、このような“代謝メモリー”の分子機構の1つであると考えられている。ヒトの生業や食行動は民族間で大きく異なるため、これに起因する栄養状態の差異が、DNAメチル化パターンに反映されているかもしれない。本研究では、伝統的な生業が異なる東アジア・東南アジアのヒト集団(遊牧民と稲作農耕民)を対象に、ゲノムワイドなDNAメチル化パターンを比較解析した。 健常なモンゴル人男性24名、タイ人男性24名の全血試料より調製したゲノムDNAを用いた。HumanMethylation 450 BeadChipを用いて、およそ45万のCpG配列のメチル化レベルを定量した。バイオインフォマティクス解析にはRnBeadsパッケージを用いた。 2集団間で年齢、BMI、飲酒・喫煙習慣の有無に有意差は認められなかった。個々のCpG配列の比較解析から、ステアロイルCoA-不飽和化酵素, 血清/グルココルチコイド誘導性リン酸化酵素1,ソルビトール脱水素酵素など、肥満、高血圧症、糖尿病などの代謝異常と関係の深い遺伝子内あるいはその近傍に、集団間で大きなメチル化レベルの差を示す部位を認めた。また遺伝子セットエンリッチメント解析の結果、インスリン抵抗性、AMP活性型プロテインキナーゼおよび哺乳類ラパマイシン標的タンパク質のシグナル伝達に関わる遺伝子群がモンゴル人でより脱メチル化されている傾向があることが明らかになった。 また、食文化がメチル化パターンに与える影響を検証するために、日本人の菜食主義者と非菜食主義者の全血DNAのゲノムワイドメチル化定量も実施し、そのデータは現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モンゴル人・タイ人のゲノムワイドメチル化解析が完了したのに加えて、食習慣が大きくことなる日本人同士でのゲノムワイドメチル化定量データも取得することができた。計画を1年延長し、これらのデータ解析とより多数のDNA試料を用いた個別メチル化定量解析を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までの実験で同定できたモンゴル人とタイ人の間で大きなメチル化量の差を示すCpG配列について、より多数のDNA試料を対象にメチル化定量を実施し、ゲノムワイド解析ででの発見を補強する。また、各メチル化部位と肥満度・血液生化学検査値、生活習慣データとの相関の有無を検証する。ゲノムワイドメチル化解析を実施したモンゴル人・タイ人についてはゲノムワイドな一塩基多型の遺伝型情報も取得してあるので、集団間でメチル化パターンの差異がどのていど遺伝的に決定されているかを推定する。また、日本人の菜食主義者と非菜食主義者のゲノムワイドメチル化定量データから、短期の栄養状態の変化がDNAメチル化パターンに及ぼす影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は、モンゴル人とタイ人のゲノムワイドメチル化定量解析で同定された、集団間で大きなメチル化量の差を示す個別の部位について、多数のDNA試料を使って検証実験を行う予定であった。しかし、平成28年度後半に日本人のゲノムワイドメチル化定量データが利用することができるようになり、3集団のデータの比較により個別解析の候補を選抜することが可能になった。ゲノムワイドのメチル化データ比較に時間を要するので、個別メチル化解析の実施を先送りした。
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次年度使用額の使用計画 |
モンゴル人・タイ人・日本人のゲノムワイドメチル化定量から同定された集団間で大きなメチル化レベルの差を示す個別のCpG部位について、メチル化特異的PCRなどの手法によって、より多数の検体のメチル化定量を実施、ゲノムワイド解析での結果を検証するとともに、生体計測値・生化学検査値との関連を調査する。
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