研究課題/領域番号 |
15K14615
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
篠田 謙一 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 研究調整役 (30131923)
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研究分担者 |
神澤 秀明 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (80734912)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古代DNA解析 / 次世代シークエンサー / 歯石 / バクテリアDNA / メタゲノム解析 / 縄文人 / 江戸時代人 |
研究実績の概要 |
本年は、古人骨から抽出したDNAに含まれる病原菌の解析例として、2つのケースについて実験を行った。ひとつは歯石に含まれる細菌のDNAの解析で、この分析に関してはオーストラリアのThe University of Adelaideとの共同研究を行っている。縄文時代人骨と江戸時代人骨合計8体から歯石を採取し、DNAを抽出後、PCR法によってバクテリアのDNAの増幅を試みた。その結果、いずれのサンプルからもバクテリアのDNAの増幅が認められ、これらのサンプルに歯石由来のDNAが含まれている可能性が示された。現在、これらのサンプルに関して次世代シークエンサを使った解析を実施しているところである。 もうひとつの例は、札幌医科大学に所蔵されている北海道の縄文晩期の人骨で、形態学的な研究によって,ポリオに罹患した可能性のあるとされている個体からDNAを抽出し、メタゲノム解析を行ったものである。この個体の持つ形態学的な特徴がポリオによるものなのかは、異論もあり確定しているわけではない。そこでDNA分析によって、この問題を解決できるのかを検証することにした。ポリオは1本鎖のRNA型ウイルスなのでそのままの形で古代試料に残っているとは考えにくい。もしメタゲノム解析によって,他の病原菌が特定できればポリオ説を否定できる可能性がある。今回は、この個体の歯髄から抽出したDNAを、Hiseq 2500を使ったゲノム解析を行った。現在、そのデータ解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯石の分析に関しては、オーストラリアのThe University of Adelaideの研究者と打ち合わせを行い,実験の手順について確認した。PCR法を用いて、この歯石サンプルから抽出したDNA溶液に,口内細菌由来のバクテリアゲノムが含まれているかを検証した。その結果、縄文人と江戸時代人の双方にゲノムDNAが含まれている事が判明した。そこで次世代シークエンサーを用いた網羅夷的なDNA配列決定を行っているところである。 北海道の縄文後期人入江9号人骨については、臼歯よりDNAを抽出しライブラリを作成した。通常であれば、ヒトゲノムを用いたエンリッチを行うが、この個体では細菌のDNAも含めたメタゲノム解析を行うので、そのままHiseqによるDNAシークエンスを行った。現在、データ解析中であるが、得られた配列421メガリードのうちヒト由来のゲノムは役3%で、他の多くはバクテリアのゲノムだった。現在、その中に病原性を持つ細菌に由来するものがあるのか等の検索を行っている。 以上、初年度としては、ほぼ予定通りの進捗状況であるので、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、まずこれまでに得られたゲノムデータを解析する。このメタゲノムデータ解析によって、病原菌のゲノムが解析できるのかを検証する。これまで我々がゲノム解析をした縄文人では、場合によっては90%以上のゲノムが細菌に由来するものだった。これまで、ヒトゲノムではないこれらのデータは、顧みることなく棄却していたが、今回の解析で、メタゲノムデータの解析法を確立できれば、これらのデータの再解析も視野に入れる。 更に、これまで手がけたサンプルの他に分析を計画しているのは、ハンセン氏病と結核菌のゲノムである。これらについても、形態学的にそれぞれの疾病を罹患していると判断された人骨からDNAを抽出し、ライブラリを作成した後、次世代シークエンサーによる解析を予定している。結核に関しては江戸時代人骨を中心に複数個体の解析を行い、その病原菌の系統を解析する予定である。現代人の系統と比較する事で、古代の結核と現代のそれの系統に関する知見を得ることを目的とする。
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