本年度は、昨年までに取得したゲノムデータの解析を行った。オホーツク文化期初期の人骨である北海道利尻島タネトンナイ遺跡から出土した人骨は、結核に罹患している可能性があることが指摘されていたが、今回の分析では結核菌のゲノムを抽出することはできなかった。これまでの結核菌分析の成功例を見ると、その多くは患部付近の人骨を材料としている場合が負い。今回は歯髄に含まれるDNAを解析しているので、これが検出に失敗した原因である可能性がある。古人骨からの病原菌DNAの検出は未だに成功例が少なく、定型的な手法が確立していないのが現状で、本研究期間でもそれをなし遂げることはできなかった。 一方、四肢骨が強く萎縮した北海道の縄文人(入江9号人骨)のゲノムデータを見直した結果、この人物は男性であることが示唆された。この人骨はこれまで女性のものとされ、それを根拠にして筋ジストロフィーではなく、ポリオに罹患していると判断されてきた。しかし男性であることが分かったので、筋ジストロフィーであった可能性が示されることになった。今回の分析は従来説の見直しを迫るものとなった。 オーストラリアのアデレード大学との共同で行った縄文人と江戸時代人の口腔細菌のゲノム解析では、両者に違いが見られた。このことから食性と口腔細菌叢の間に関係がある可能性が示され、食性が不明な集団についても,口腔細菌叢の分析によって見当を付けることができる可能性があることが示された。
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