本研究では汗腺に関わる固有の遺伝子( エクトジスプラシン(EDAR),EDAR370A)と発汗調節機能との関係を明らかにすることを目的とした.H28年度ではEDAR370A遺伝子の同定は行うことが出来たが,被験者数を十分に確保できなかったため,H29年度においても引き続き同様の実験を行った.さらに,発汗機能評価に関する基礎的なデータ収集も実施し,遺伝子との関係の検討も試みた.
被験者をさらに40名追加し,遺伝子の解析を行った.EDAR370A遺伝子を有する者は日本人で80%と多いが,この遺伝子を有しないものは日本人の約20%しかいないため,EDAR370A遺伝子を有していない被験者は40名中3名であった.この3名の被験者の発汗機能を,イオントフォーレーシスによる末梢発汗機能,座位姿勢にて膝から下を42°Cの湯に約50分間つける温熱負荷あるいは高温下での自転車運動時の発汗機能から検討を行った.
EDAR370A 遺伝子を有している被験者の活動汗腺数は多い傾向にあったが,量と質(汗イオン再吸収能力)からみた発汗機能には大きな違いはみられなかった.また,発汗機能の検査として,よく汗をかくヒトの汗腺の特徴にはβ-リセプターが関係いていること,汗イオン再吸収能には運動が影響することも加えて検討できた.しかし,これらと遺伝子の関係については明らかにならなかった.今回,遺伝子解析ができる環境を構築し,新しい実験にチャレンジできたが,EDAR370A遺伝子を有しない被験者数が少なく,結果の普遍性は得られなかった.今後も引き続き被験者数を確保し,EDAR370A遺伝子が発汗機能に及ぼす影響に関する研究を継続し,発汗機能に対するこの遺伝子の役割を明らかにしたい.
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